避難所生活は「つらい」のが当たり前? 雑魚寝にトイレ問題…変わらぬ国の震災想定シナリオ、専門家は批判

広畑 千春 広畑 千春

 pm5:00 つらい避難生活が始まった。(中略)水洗トイレはすでにあふれ、校庭でトイレを済ませる人も出る状況になっていたのだ―

  内閣府のホームページに、地震が起きたときにどのようなことが起こりうるのかをまとめた「想定シナリオ」が掲載されています。「一戸建て」で被災したシナリオを開くと、最後のページにはこんな言葉が書かれていました。

 地震発生は午前3時。2階建ての1階が半分つぶれかけるような都市直下型の激震で、生後10か月の子どもと妻を連れ、年老いた母を背負って避難所にやってきた…という想定です。暗い避難所には、敷物の上に人々がうつむいて座っているイラストも添えられています。

 25年前の阪神・淡路大震災では避難所のトイレ問題が深刻化。インフルエンザや血栓症なども多発して震災関連死が相次ぎ、東日本大震災や熊本地震の被災地でも続出しました。避難所の環境改善が叫ばれてきましたが、一昨年の西日本豪雨の避難所でも、昨年の台風19号の避難所でも、同じような光景が繰り返し見られました。この状況が国が考える「一般的な想定」なのでしょうか? 内閣府の担当者に聞きました。

備えなければ、「つらい避難所生活」をすることに?

 ―やはり、避難所生活は「つらい」前提なのでしょうか。

 「想定シナリオは災害時に起こり得る状況を細かく書き出すことで、災害時に取るべき行動を考えてもらうもので、2010年に作成しました。内容は過去の事例を踏まえたもので、あくまで一例であり、イラストもイメージですが、一般的に避難所では、プライバシーが守られないなど、普段の自宅での生活に比べてつらいのが現実です。国も段ボールベッドの導入などを促してはいますが、普段からご自身で備蓄や家の耐震補強などをしておかなければ、こうした避難所生活をすることになります。避難所生活をしないために、普段から備えて頂きたい、という主旨です」

 ―これを見ると避難所に行くのをためらってしまいそうです…

 「避難には2つのパターンがあり、1つは河川の氾濫など危険が迫っているときに命を守るための避難。もう1つが避難所生活をするための避難です。前者では、できるだけ多くの人に避難して頂く必要がありますが、後者では避難所ではなく、在宅避難という選択肢を持って頂きたいと考えています」

 ―避難所って行かない方が良いものだったんですね。でも、このシナリオの状況のように、災害規模が大きく帰れない場合は?

 「はい。その場合でも、普段からご近所や親戚と日頃から交流を持って助け合う環境を作って身を寄せて頂くとか、数日間過ごせる避難バッグ、プライベートテントなどを準備して頂きたいと思います。ただ、ご高齢の方などで避難すべきなのに無理をして避難しない―というケースでは、避難しやすいよう環境を整える必要があります」

 ―未だに避難所はこうなのか、と思ってしまいました。

 「自宅に比べれば生活のレベルは下がり、普通の生活はできなくなります。仕方なく避難せざるを得ない方については、トイレなどの設備面や女性を運営委員にするといった点を運営マニュアル等で周知しております」

とのことでした。

関連死は「避難してきた人たちを殺しているようなもの」

 「現在の基準は被災後1週間で解消するのが原則。1カ月2カ月も人間が生活するところではないんです」。阪神・淡路後、避難所環境の抜本的改善を訴え続けてきた兵庫県立大防災・復興政策研究科長の室崎益輝さんは指摘します。「ですが、良好な避難所環境を作ろうとすれば、現在の5倍は避難所が必要になるでしょう。主に学校が避難所に指定されている現在では難しい。それには莫大なお金がかかるので、できればしたくないという思いが潜在的に国にはある」とし、「劣悪な環境で生じた災害関連死は、避難した人を殺しているようなもの。にも関わらず、その痛みは国には理解されていないし、自治体の中には『これが当たり前』と思い込んでいる人も少なくない」と語気を強めます。

 そして「確かに個人での備えは必要だが、本来国民の命を守ることが国の最大の使命。『苦しい思いをするのは、自分のせい』という自己責任論で逃げるのではなく、最大限の努力をするのが国の責任のはず」と室崎さん。近年、避難所運営の国際基準として「スフィア基準」が取り上げられ、「TKB(トイレ・キッチン(温かい食事)・ベッド)」や「プッシュ型支援」が強化されていますが、「例えば食事でいえば、熊本地震では保健所が衛生面の問題から炊き出しを禁止しました。国はプッシュ型支援としてレトルト食やおにぎりを大量に送りましたが、朝昼晩冷たい食事を食べ続けるのは果たして人間的でしょうか。むしろ支援としては、後退しているのでは」と室崎さん。

 「大切なのは『災害や紛争の影響を受けた人びとには、尊厳ある生活を営む権利があり、従って、支援を受ける権利がある』『災害や紛争による苦痛を軽減するために、実行可能なあらゆる手段が尽くされなくてはならない』というスフィア基準の理念そのもの。一人ひとりの暮らしを見て支えていく議論をしなければ」と話します。 

 阪神・淡路から25年となった今月17日、神戸などで多くの追悼行事が行われる中、当時避難所を経験し、今は母親になった女性は「授乳やおむつ替え、夜泣きとか考えたら、今あの避難所に…なんて絶対無理」と首を振り、発達が気にかかる子どもを育てる親たちも「特性上、耐えられない。どうやっても行ける気がしない」…と頭を抱えます。

 災害が多発し、いつ誰が被災者になってもおかしくありません。家に帰れなくなった私たちには、どんなシナリオがあるのでしょうか。

■内閣府・防災情報のページ 防災シミュレーター「想定シナリオ」 http://www.bousai.go.jp/simulator/shinario/index.html

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