12月10日に与党税制改正大綱が発表された。目玉の改正についてはニュースや新聞報道でご案内のとおりだ。「成長と分配の好循環の実現」を掲げて、例えば法人税の納税額を控除することができる「賃上げ優遇税制」は、給与所得者の可処分所得が増えれば消費を促進することになるだろうから、デフレスパイラルからの脱却の一助になるのではないかと期待される。ほかに「住宅取得資金の贈与の特例」の2年間延長、「住宅ローン控除」の改正などが多く取り上げられやすいので、ここではあえて改正を見送られたものに着目したい。
一つは「電子帳簿保存法」電子保存についてだ。本来は2022年1月1日から適用される制度で、中小企業は特に準備不足のまま対応を迫られることになるので不安だったが、2年間の猶予期間が設けられた。これは法自体の改正ではないが、適用について「やむを得ない事情」があれば猶予するというものだ。「やむを得ない事情」というのが気になるが、実際のところ年明け早々に対応できていなくても即、問題にはならないだろう。以前にも書いたことがある「税務調査の効率化」の一環であるから課税庁側も慎重にならざるを得ないのかもしれない。
二つには、「金融所得課税強化」についてである。給与所得や事業所得が累進税率をとっているのに対し、金融所得に対する税率は一律20%で、高所得者層は所得に占める金融所得の割合が高いため、所得税負担率が低い状況がみられる。「金融所得に対する課税のあり方について検討する必要がある」としながらも、今回は改正が見送られた。一般投資家の投資意欲を削がないような、配慮ある制度が必要なのは言うまでもない。
三つには、「相続税と贈与税の一体的な課税のあり方」についてだ。これについて税制調査会の意見書が発表された令和2年11月以来、暦年課税制度の改正を行うことによって相続税対策としての生前贈与が行いにくく(節税にならなく)なるだろうと予想されていたのだが、今回の改正は見送られた。大綱の記載をそのまま借りると「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から~、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める」だそうだ。つまり、一年前から進んでいない。
生前贈与が最低でもあと2年(令和5年3月までとして)行えるということになり、喜んでおられる向きもあろうかと察するのだが、増税であっても減税であっても、「課税の予測可能性」というものはその国の税制にとって重要な要素だ。それによって個人や法人の経済行為自体に影響を与えるからだ。どういった行為をいつまでに行うかの意思決定に、である。
ところで、自民党税制調査会には「インナー」と呼ばれる中心的な人たちがいるらしい。実は、10月末の衆議院選挙の結果などにより、「インナー」9名のうち7名が抜けてしまうこととなった。しかも税制改正にとっては、最も重要な時期と重なってしまったわけだ。このことが今回の税制改正にどのような影響を与えたのか、筆者にはわからない。ただ、全く影響がないならそもそもその存在意義が疑われるのではないだろうか。今後の税制をめぐるパワーバランスが気になるところだ。