「トムとジェリーみたいだね」深い絆で結ばれた捨て猫の兄弟 ガラス工房の薩摩切子師を和ませるファミリーに

うちの福招きねこ〜西日本編〜

西松 宏 西松 宏

 19世紀に鹿児島で誕生したガラス工芸品・薩摩切子の伝統を受け継ぐ「美の匠 ガラス工房 弟子丸」(鹿児島県霧島市、弟子丸努代表)。2006年には黒切子の制作に携わり、この12月には虹色に輝く新商品「彩雲(さいうん)」を発表するなど、伝統を礎に新潮流の薩摩切子を生み出している。そんな工房に今年6月、2匹のハチワレ柄の兄弟猫がやってきた。工場長の下簗(しもやな)友太さん(34)の飼い猫、「トム」、「ジェリー」兄弟(ともにオス、生後半年)だ。今は看板猫修行中だが、2匹は日々たゆまぬ努力を重ねる工房の切子師たちにとって癒しの存在になっている。2匹との出会いや工房での暮らしぶりなどについて、下簗さんに話を聞いた。

 2匹は今年6月、従業員の一人が自宅近くで鳴いていたところを見つけて保護し、「どうしたらいいだろう…」と困って工房に連れてきた子たちです。当時、まだ生後数週間くらい。両手のひらに2匹がちょうど乗るくらいの大きさでした。周囲に母猫の姿は見当たらず、この2匹の兄弟だけがポツンといたそうで、もしかしたら捨てられたのかもしれません。

 兄弟で生き延びたからか、2匹の絆はとても深いんです。どちらか1匹が少しでも離れると、「どこいったの?」「さびしいよ」といわんばかりにもう1匹が鳴きます。引き離せないんです。最初は新しい飼い主さんを探していたのですが、2匹一緒に引き取ってくれる方がなかなか見つからず、それで僕が責任を持ってこの子たちを飼うことにしました。

 いつも一緒にいてじゃれあったりしているので、周囲からは「なんだかトムとジェリーみたいだね」と。それでこの名前になりました。仲良しなので喧嘩はしませんけどね(笑)。トムは甘えんぼう。ジェリーはマイペースでツンデレです。特にトムはジェリーがちょっとでも離れると、ニャーニャー鳴いてうるさいくらい。いつも一緒にいないと嫌みたいです。

 工房内は、切子を制作する工場、切子や小物、雑貨などを展示、販売しているショールーム、カット体験教室などに分かれています。2匹ともビビりで切子をカットするモーターの音が嫌いらしく、工場内には立ち入りません。昼間、僕が仕事をしているとき、2匹は主にショールームの奥に設置している大きなケージの中で過ごしています。

 ショールームでは高価な切子なども展示、販売しています。万が一、体が触れて落としたり割ったりしたら大変なので、陳列棚には近づけないようにしています。お客さんがやってきたら玄関まで出迎えにいったり、商品を壊したりしないよう、目下、看板猫修行中です(笑)。

 工房では切子の「カット体験」もできます。アクセサリーなどが手軽に作れるので、観光でこられた方々の間で人気です。体験を終えて、帰りにショールームに立ち寄られる際、猫好きの方にはケージから出して、2匹とふれあってもらっています。

 先日は、新婚旅行で来られたご夫婦の奥さんに抱っこしてもらったんですけど、偶然にもアニメのトムとジェリーのTシャツを着ておられたのでびっくり。和気あいあいとふれあってもらえました。誰に抱かれても嫌がらず、じっとしていますね。どちらかを抱いていると、もう1匹が「僕も」とせがむように訴えてくることも。「薩摩切子と猫、とてもいい思い出になった」と笑顔で帰っていかれる方が増え、とても嬉しく、励みになります。

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