サウナバス“運行”間近 路線バス会社の女性社員がベンチャー設立 自費投入し「景色楽しめるサウナを」

伊藤 大介 伊藤 大介

サウナバス。サウナでバス。

路線バスを引退した車両をサウナに活用する「サウナバス」事業を、地方バス会社の若手社員が計画しています。兵庫県を中心に路線バスや高速バスを運行する「神姫(しんき)バス」(兵庫県姫路市)の松原安理佐(ありさ)さん(28)が、私費を投じてベンチャー企業「リバース」を立ち上げ、神姫バスで使ってきた車両の改造に取り組んでいます。自ら資金調達に奔走し、PRも担う松原さん。そもそも、なんでサウナバスなんですか?これ、走るんですか?サウナ好きの記者が聞きました。

車両後部がサウナ、前部が休憩スペース

姫路市にある神姫バスグループ会社の作業場で、サウナバスの改修工事が行われていました。車両後部がサウナ室となり、車両前部が休憩スペース兼事務室となります。サウナ室は4列で最大9人、最後部席は寝転がることもできます。サウナストーブはフィンランド製と本格的です。現在は工事中ですが、完成イメージは出来上がっています。

会社は社員1人、海外メディアも注目

バス会社発とは思えない攻めた企画に、テレビや新聞の取材のほか、スペインなど海外メディアからも問い合わせがありました。

近年、サウナブームが到来し、間接照明がおしゃれなサウナ施設や、サウナリゾートホテルなど、さまざまな施設が全国で生まれています。でも、なぜバス会社がサウナバスなんですか?

「2015年に入社した時から企画をやりたいと思っていました。3年間、不動産事業の部署にいた後、希望していた事業戦略部に異動しました。でも、既存事業の課題解決が業務の中心で、新規事業に手を挙げる人はなかなかいませんでした。それはきっと、神姫バスが企画した新規事業で、成功事例がなかったというのが大きかったのではないかと思います」

ーー交通インフラを担う堅実な会社にとって、新規事業を打ち出すのは慣れないことかもしれませんね。

「何か新しいことに挑戦してみようと思って、私は2019年から企画を考え始めました。そして2020年に海外のバス事業を調べる中で、フィンランドで行われていたサウナバスを見つけたんです。海外って変な事例が多いので(笑)」

ーーサウナ好きだったんですか?

「いえ、全然(笑)。お父さん世代というか、男の人が行く場所、というイメージでした。それで、サウナ愛好家らのTwitterアカウントにDMを送り、『サウナバスってどう思いますか?』と聞いたんです。そうしたら、めちゃくちゃ面白いやん!と好評だったので、これはいけるのかなと思いました」

貯金切り崩して起業、自ら資金調達に奔走

ーー社内の新規事業ではなく、松原さんが新しく会社を立ち上げて、出向し、起業、というのが驚きました。

「元々は社内の新規事業として考えていたんです。でも、2021年1月に入って、経済産業省が『出向起業』を支援する補助金を出すことを知って、新たに会社を立ち上げることにしました。応募時には会社を立ち上げていないといけなかったので、5月に新会社リバースをを設立しました。社員は私1人です。神姫バスから私の人件費はいただいていますが、資本金もバスの工事費も自分の貯金を切り崩して出しています」

ーー身銭を切るとは、松原さんにとっては、社内の新規事業よりハードルが高い印象です。今後、運営資金はどうなっていくのでしょうか?

「私が銀行へ行って融資を申し込んだり、ベンチャーキャピタルでプレゼンして、出資を求めたりしています」

フィンライド製ストーブ、降車ボタンで蒸気浴と愛好家も納得の仕様

ーーフィンランド製の薪ストーブを空輸し、降車ボタンでストーブに水がしたたり落ち、ロウリュ(蒸気浴)ができるなど、サウナ愛好家も納得の仕様です。

「日本最大のサウナ検索サイト『サウナイキタイ』さんと連携し、さまざまな助言をいただいています。フィンランド製の薪ストーブも「これは必要!」と熱弁され、降車ボタンでのロウリュもバスらしさを出したほうがいい、と提案を受けました。車両前方も路線バスで使っていたシートやつり革をあえて残しています」

ーーサウナバスは走るんですか?

「走りますよ。イベント会場へ赴いたり、川沿いに行くことができるかもしれません」

ーー薪を燃やすストーブがあると、走行に危険はないのでしょうか?

「安全面はとても気を遣っているところで、まずサウナ中は運転しません。ストーブが冷えてから、エンジンをかけるなど対策は十分取り組むつもりです」

年明け完成、温浴施設への貸し出しやイベント出店、自然豊かな場所へ出張も

ーーサウナバスはいつごろ完成ですか?

「2022年1月に完成の見通しです。温浴施設や宿泊施設への貸し出しのほか、サウナイベントなどへの出店も考えています。サウナで窓がついていて、外が見えるのは珍しいんです。なので、秋は紅葉、春は桜、そして海、河原など、サウナで景色を楽しんでもらえたらなと思っています」

  ◇   ◇

サウナに無縁だった松原さんも、神戸や大阪のサウナ施設に通って、温冷浴の気持ち良さを知ったそうです。新たに立ち上げた「リバース」の社名には、「RE BUS(バスの再生)」と「RE BIRTH(生まれ変わらせる)」の二つの意味を込めました。新型コロナウイルス感染症で苦境が続くバス事業を生まれ変わらせられるか、松原さんの挑戦に注目しています。

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