ブリヒラという「幻の魚」をご存知ですか。ブリとヒラマサを掛け合わせて生まれた、ブリの脂のりの旨さとヒラマサのほどよい歯ごたえを持つ美味しい魚です。天然では大変珍しい存在ですが、近年養殖された魚が実験的に販売され、人気が広がりつつあります。そんなブリヒラが全国の「くら寿司」で11月14日まで期間限定で提供され、話題になっています。ハイブリッドな味わいを試してみたい方には大チャンスです!
回転寿司チェーン・くら寿司で11月3日から提供が始まったのが、「ぶりひら」「ゆず漬けぶりひら」です。それぞれ1皿(2貫)220円(一部店舗では価格が異なる)です。SNSでは「食べてみたい」「お店を探して行かねば」といった声のほか、「めっちゃ美味しかった」など、実際に食べてみた人たちの報告も見られます。
ブリヒラは雌のブリと雄のヒラマサが交配することで生まれた「交雑種」とされ、自然界では1万匹に1匹程度しかいない貴重な魚。水揚げされても認知されず、ブリやヒラマサとして市場で売られることもあるそうです。そんなブリヒラですが、近畿大学が1970年に人工交配に成功し、養殖が行われています。近畿大学といえば2002年に世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功したことでも有名ですが、ブリ類のハイブリッド魚で産業化を実現させたのも世界初のことだったといいます。
ブリヒラは近大発のベンチャー企業である「アーマリン近大」が稚魚を育て、高知や鹿児島、愛媛にある契約した養殖業者に販売。そこで成魚になったブリヒラを加工会社が加工して販売します。アーマリン近大の関連会社でありブリヒラの加工メーカーの「食縁(しょくえん)」と、販売を担う「ニシウオマーケティング」の担当者2人にブリヒラについて伺ってみました。
――あらためてブリヒラの特徴を教えてください
簡単に言うとブリとヒラマサのイイトコどりです。ブリは血合い肉が大きく変色しやすく、夏は身が柔らかく身割れしドリップが出るという短所があります。ブリヒラは血合い肉が小さく変色せず身がしっかりして歯ごたえが良く身割れせずドリップが出ませんし、夏でも脂が乗っています。一方、ヒラマサは成長が遅く原価がかなり高いという短所があるのですが、ブリヒラの成長はブリよりは遅いけれどヒラマサよりはかなり早いです。ブリヒラの味はブリに近く、身の硬さはやや柔らかいブリと若干硬すぎのヒラマサの中間という科学的分析結果が出ています。
ちなみに近大では雄雌を換えたヒラマサ(雌)とブリ(雄)の交雑種であるヒラブリの開発にも成功していますが、ブリヒラの方が長所が多いため、ブリヒラに絞って開発しています。
――現在ブリヒラはどこで食べられるのでしょうか?
いま食べることができるのは、「くら寿司」さんと、東日本を中心に展開しているスーパーの「ベイシア」さんです。
ベイシアさんでは、2019年からブリヒラを実験的に販売してきました。認知度が高まり、現在はブリヒラの人気に対して供給量が追いついていない状況です。くら寿司さんでの提供が期間限定となったのは、そのためです。
――ベイシアは2019年に1万5000尾限定で販売していて、2021年には5万尾以上の本格販売を目指しているそうですが、1970年の開発から販売までかなり時間が経っているのはなぜでしょう?
ベイシアさんの前にも細々と販売していたことがありました。しかし20年くらい前にアメリカで遺伝子組み換え食品の問題が起こり、遺伝子組み換えをしてないのにも関わらずブリヒラが風評被害でなかなか販売できない状況が続いたのです。
ベイシアさんと当社(食縁)は2017年に『持続可能な養殖水産物の普及に関する協定』を締結していて、天然資源を減らすことがない持続可能な水産物の提供に取り組んだことにより、大々的にブリヒラを販売することができたのです。ベイシアさんとの地道な取り組みによってお客様に理解され評価される商品になりました。
――ブリヒラの価格はブリやヒラマサと比べるとどうなんでしょう?
価格はブリよりは高く、ヒラマサと同じくらいで、カンパチよりは安いといった感じです。完全養殖ですので安定して供給でき、一年中楽しめます。
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ほかの回転寿司、持ち帰り寿司チェーンからもブリヒラを提供したいと声がかかっているそうですが、くら寿司でも期間限定の提供となったように、供給量が追いついていない状況だといいます。今後はより多くの方々に食べてもらえるように、生産量の拡大をしていく予定だそうです。