突然ですが快速急行と特急はどちらが速いのでしょうか。「そりゃ、特急でしょ」と答えたくなりますが、中には特急停車駅にもかかわらず、快速急行が通過する例も見られます。優等列車の停車駅が複雑なことで知られる阪神電気鉄道を例に列車種別の不思議に迫ります。
特急停車駅なのに快速急行が通過する阪神本線
阪神本線(大阪梅田~元町)を例に取り上げ、直通特急・特急と快速急行の比較してみます。阪神本線の主な上位優等種別は直通特急・特急と快速急行です。直通特急と特急の停車駅は阪神本線では一部の列車を除き同一であり、元町駅から神戸高速線、山陽電鉄線に乗り入れます。
快速急行の基本的な運行区間は神戸三宮~近鉄奈良間となり、阪神本線において直通特急・特急と快速急行が重複する区間は神戸三宮~尼崎間です。土休日昼間時間帯における神戸三宮~尼崎間の停車駅と所要時間は以下のとおりです。
【神戸三宮~尼崎間の停車駅と所要時間(土休日の昼間時間帯)】
▽直通特急・特急 所要時間23分
停車駅:神戸三宮、御影、魚崎、芦屋、西宮、甲子園、尼崎
▽快速急行 所要時間25分
停車駅:神戸三宮、魚崎、西宮、今津、甲子園、武庫川、尼崎
所要時間を見れば「直通特急・特急の方が速い」という結論に至ります。しかし、停車駅をよく見ると直通特急・特急の停車駅である御影駅、芦屋駅には快速急行は停車しません。なぜ一部の直通特急・特急停車駅に快速急行は停車しないのでしょうか。
快速急行が通過する複雑な理由
御影駅はすべての快速急行、芦屋駅は土休日の快速急行が通過します。それぞれ通過するやむを得ない事情があります。
御影駅のケースでは相互直通運転を実施している近鉄電車と阪神電車の車体の長さが関係します。阪神電車の1両あたりの長さが約19mなのに対し、近鉄電車は21mです。御影駅はカーブ上にあり、阪神電車6両がギリギリ停車できる長さしかありません。
つまり、近鉄電車6両が停車するとホームからはみ出してしまいます! しかも乗り入れ前の試運転において近鉄電車が御影駅ホームに接触する可能性があることも判明。御影駅のホームを一部削るという涙ぐましい努力により、2009(平成21)年に阪神・近鉄の相互直通運転がスタートしました。
一方、芦屋駅のケースは昨年3月のダイヤ改正で実施された土休日の快速急行8両化(一部列車を除く)が関係しています。芦屋駅は6両対応のホームを有していますが、両端には踏切道があり、ホームを延長することはできません。
そのため8両編成の列車はホームからはみ出すので、土休日の快速急行は芦屋駅には止まりません。ただし平日の快速急行は6両編成で運行されるため、芦屋駅に停車します。
阪神本線が採用する「千鳥式運転」とは
直通特急・特急と快速急行の比較だけでも頭が痛くなりそうですが、昔はもっと複雑でした。1998(平成10)年の下り(元町方面)平日朝ラッシュ時間帯の直通特急と準急の停車駅を比較してみましょう。
【下り(元町方面)平日朝ラッシュ時間帯における停車駅(1998年)】
▽直通特急
梅田(現 大阪梅田)、西宮、芦屋、御影、三宮(現 神戸三宮)以遠の各駅
▽準急(梅田発は御影止まり)
梅田(現 大阪梅田)、福島、野田、姫島、千船、杭瀬、尼崎、出屋敷、武庫川、鳴尾(現 鳴尾・武庫川女子大前)、甲子園、今津、西宮、深江、魚崎、御影
停車駅の数を比較すると直通特急は準急の差は歴然としていますが、下り準急は直通特急停車駅の芦屋駅には止まりませんでした。
このように上位種別と下位種別の停車駅をずらす方法を一般的に「千鳥式運転」といいます。「千鳥式運転」は列車本数の増加や速度維持の実現、乗客が特定の列車に集中することを防ぐといったメリットがあります。先ほどの例だと仮に下り準急が芦屋駅に停車すると、後続の優等列車は徐行を余儀なくされます。
また現在の区間特急は魚崎~香枦園間は各駅に停車しますが、直通特急・特急停車駅の西宮駅を通過することにより、乗客が直通特急・特急と区間特急で分散するように工夫されています。
一方「千鳥式運転」のデメリットは必然的に種別が多くなり、乗客にとって覚えにくいダイヤになります。そのためか採用例は少なく、阪神本線も以前と比較するとわかりやすいダイヤになりました。いずれにせよ、はじめて阪神本線を利用するときは停車駅や時刻表をよく確認することをおすすめします。