岸田銘柄、本命は電力株か どうする「カーボンニュートラル」 総裁選では原発再稼働を主張

山本 学 山本 学

 就任早々、大幅な株安に見舞われた岸田文雄新首相だが、株安が落ち着いたところで改めて前政権との違いを見渡してみると、今後の物色の手がかりも出てくるのではないか。数十兆円ともいわれる補正予算を組むという話もあるので、恩恵を受ける銘柄もあるだろう。総裁選、首班指名に組閣、施政方針演説などを通じて徐々に明らかになってきた岸田政権の特徴から、改めて関連銘柄を考えてみたい。新設した大臣などから方向性が伺えるのか、あるいは安倍・菅政権が重視した「脱炭素」への取り組みはどうするのか。

 自民総裁選では岸田文雄氏と河野太郎氏との決選投票を実施することになり、岸田氏が自民党の総裁に就任することが濃厚になったと分かった時に物色されたのは、東証2部上場の医療機器商社で、病院の設計なども手がける「レオクラン」(証券コード7681)だった。岸田氏が新型コロナウイルスの感染拡大に関連して、「医療難民ゼロ」を主張していたためだとの解説が市場では聞かれていた。病院の設備を充実させたり、新たに病院が建設されたり、といった流れを連想したという。

 ただコロナ対策は誰が首相になっても国民的関心事だし、ワクチン接種を中心とした対策がこれから大きく方向転換される可能性は低い。コロナ関連の施策は織り込み済みといえ、レオクラン株も8月の高値を上回らずに利益確定の売りに押される展開だ。宿泊療養施設の追加確保などはビジネスホテルなどの収益の下支えになる可能性もあるが、それまでの打撃は大きいし、少なくとも現在は感染者数が減少局面。新たに恩恵を受ける銘柄を探すのは難しいのが実情だろう。

 組閣では、自民総裁選で対立候補になった野田聖子氏を少子化担当相に据えたことが話題になった。野田氏は通常国会での「こども庁」法案提出に向けて、年末までに基本方針を取りまとめる考えを表明した。少子化対策が施策に乗るたびに、ポピンズホールディングス(7358)やJPホールディングス(2749)といった保育園株だったり、幼児体育指導の幼児活動研究会(2152)だったり、ベビー・子供用品の西松屋チェーン(7545)などが物色されてきた。しかし実際に子供の数が増えてはおらず、保育園株にしても補助金によって収益性が向上したという展開にはなっていないのが現状だ。となると、子供・子育て関連は動きが出たとしても、短期の値幅取りと割り切った売買しか見込めないだろう。

 一方で、組閣では「経済安全保障担当相」を新設したのも注目された。主に素材や部品の供給網(サプライチェーン)を巡る問題と、技術や知的資産の流出への対策などが施策の中心になるとみられる。具体的には半導体不足などが経済安保問題だ。これについては台湾の半導体生産受託会社である台湾積体電路製造(T S M C)とソニーグループ(6758)が共同で熊本県に半導体の新工場を建設するというのが早速伝わった。新工場の総投資額は8000億円というが、報道によるとこのうち4000億円を国が負担するというから破格といっていいだろう。岸田政権の経済安保で最初に恩恵を受けたのがソニーグループになったといってよさそうだ。こうした恩恵を受ける銘柄は、これからも散発的に現れそうだ。

 一方で、施政方針演説では「脱炭素」という言葉が1回も出てこなかったのが関心を集めた。「2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします」と述べたが、温暖化ガスの排出削減について触れたのはここだけだ。2030年の目標には言及すらなかった。加えて岸田氏が総裁選で主張したのは、原子力発電所の再稼働だった。再生可能エネルギーだけで国内の電力はまかなえないという、現実路線への転換ともいえる。夏や冬のピーク時に電力不足の心配をする現状を脱することができるとすれば、産業全般にも好影響だ。

 そうした状況に最も関係する銘柄といえば、やはり電力株だろう。二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンエネルギーへの転換を考える中で、その選択肢に原子力発電所の再稼働が入ってくるなら、今後の電力供給をめぐる先行き不透明感は大幅に後退することになる。電力株は岸田政権発足後に株式相場全体が下落する中にあって、相対的に底堅い値動きの銘柄が多かった。特に東京電力ホールディングス(9501)は10月8日までの1カ月間に24%も上昇した。原子力発電所の再稼働が可能であれば、電力多少非業種である鉄鋼(特に電炉)や、非鉄金属なども電力料金の低下という形で恩恵を受けることになるだろう。

 もっとも原子力発電所の再稼働については、根強い反対論があるのも事実だ。東日本大震災の直後に東京電力の福島第一発電所で事故が発生して以来、どのような対策が取られたのかを改めて示す必要があるだろう。核廃棄物の処理についての技術開発も再スタートをする必要があるだろう。いずれにしても電力株の動きは見逃せない。経済安全保障で恩恵を受ける銘柄として、どういった銘柄が浮上してくるかと合わせて注目しておきたい。

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