伊勢神宮・四至神に「手をかざしたらパワーが貰える」はデマ!? 「スピブームの弊害」「対策をすべき」

中将 タカノリ 中将 タカノリ

「いい加減、伊勢の神宮に祀られている『四至神』の前に、手をかざすところではなく礼拝をするところだという趣旨の立札を設置するべき 」

伊勢神宮の境内に祀られている「四至神(みやのめぐりのかみ)」で行われている手かざし行為がSNS上で大きな注目を集めている。

「『手をかざしたらパワーが貰える』などという根拠の無いデマがあまりにも広がり過ぎている 」と手かざし行為の広がりに警鐘を鳴らすのは民俗や宗教について学んでいるという「切り絵道⛩folklore」さん(@kirie_folklore)。

たしかに神道の参拝方法は「二拝二拍手一拝」が一般的。それにも関わらず四至神で手かざし行為が流行しているのはどういうわけだろうか。切り絵道⛩folkloreさんの投稿に対し、SNSユーザー達からは、

「パワースポットブーム前は誰もが通り過ぎてたところがブーム始まったらあちこちでこれ 自分としては橋を渡って神域に入った時点でそれ以降は全部パワースポットだし、その中でこんなんするとか下衆というか罰当たりな感じがしてイヤ」
「 10年ほど前に行った時は触ってた人までいましたからね…私も何か対策をすべきだと思いました。
何処の磐座でも同じ様な事が起きてるみたいで、出雲の須我神社奥宮 (須佐之男命御磐座)に昨年行った時には11年前に行った時より磐座が何か疲れてる様に感じましたし…完全にスピブームの弊害ですね 」
「 パワーが欲しかったらきちんとした作法で参拝したあとに、赤福モリモリ食って伊勢うどんガンガンすすって焼肉屋で松阪牛をワシワシ食べると良い。」

など数々の賛同のコメントが寄せられている。

切り絵道 ⛩folkloreさんにお話をうかがってみた。

中将タカノリ(以下「中将」):今回の注意喚起のきっかけをお聞かせください。

folklore:前提として、神宮境内に祀られている四至神は、神域の守護神であり、外宮と内宮に一箇所ずつ祀られております 社殿を持たず、一見するとただの小さな岩ですが、磐座(いわくら)という神を宿す神聖な岩であり、神宮125社に数えられる立派な「神社=カミのヤシロ」です。つまり信仰の対象であって、当然、他の神社と同様に礼拝されるべき場なのです。

ところが、昨今のスピリチュアルブームの中で、内宮の四至神がいわゆる「パワースポット」として注目を集めるようになり、 「手をかざすとパワーが貰える」という誤った噂が流され始めます。この噂は大きな拡がりを見せ、ここを訪れる多くの人が手をかざすようになりました。

私が訪れた時にも、四至神に対して腕を伸ばし、掌を向けている人集りが確認されました。「みんなが手をかざしているから、きっとそういう場所なんだろう」という、ある意味では日本人らしい誤解からの行動であるという印象ですが、それが一般化しすぎてもはや礼拝をする人の方が少ないという有様です。手をかざしている人たちも「御利益・御神徳」をいただきたいという想いからの行動なのに、むしろそれが神に対して不敬な行為であると知ったら悲しむことでしょう。これでは誰の得にもなりません。それを少しでも改善したいという想いから、今回のツイートをするに至りました。

中将:近年、各地の宗教施設でスピリチュアルブームに端を発したと見られる謎の行為や間違った解釈が見られるようですね。

folklore:一般的な作法とは異なった特別な作法によって、より多くの御利益・御神徳をいただきたいという考えから、伝統や常識から逸脱した参拝法が生み出される傾向にあります。神社仏閣の中には、そういった行動に頭を抱えている宮司・住職もいます。酷いものだと、「神像の削りカスを財布に入れると金運が上がる」というデマが流された結果、神像をコインでガリガリと削る参拝者が急増し、像が摩耗して何体も取り替える事態となったり、 「御神木から落ちてきた葉や花弁を財布に入れると運気が上がる」 というデマが流された結果、御神木の根を踏みながら跳ね回る集団や、幹を揺らして葉や花弁を落とす参拝者がやはり急増し、木が傷んでしまうといった被害が出ております。

信仰というものは、長い歴史の中で変容するものです。ちょっとした誤解から始められたことが、いつのまにか伝統となるケースも多々見られます なので、スピリチュアルブームの中で編み出される誤った作法も、伝統にそぐわないと頭ごなしに否定するのは、あまり理性的ではないかもしれません 。しかし、根拠のない噂による変容はなるべく避けたいものですし、寺社に被害を及ぼす非常識な参拝法は戒めなければなりません 。

日本の新宗教団体の中には、信仰対象に向かって手をかざして祈りを捧げる教団も存在します。つまりその教団内では「手かざし」が正しい礼拝の作法なのです 。しかし伊勢神宮は神道という宗教の施設ですから、ここで手かざし等を行うのは誤った作法であり、マナー違反ということになってしまいます。神社は信仰の場ですが、人々の憩いの場でもあります。「どこかへ出かけたついでに参拝する『ついで参り』をしてはいけない」という人もおりますが、これも根拠はありません。どなたでも気軽に参拝して良いものなのです。しかし、あくまでも宗教施設ですので、最低限の礼節は持つべきでしょう 。自分だけを特別に幸せにして欲しいといった強欲な考えは棄てて、謙虚な気持ちでマナーを守っての参拝を楽しみたいものです。

◇ ◇

四至神での手かざし行為について伊勢神宮に問い合わせたところ公式サイト上で次のような案内をしていることを教えてくれた。

「四⾄神
四至とは神域の四方を意味します。社殿や御垣はなく、石畳の上に祀られます。近年、手をかざす方がいますが、神様をお祀りする場所ですので「二拝、二拍手、一拝」の作法でお参りください。」

誰がどのような意図を持って手かざし行為を始めたのか定かではないが、せっかく参拝するなら正しいマナーを心がけたいものだ。

切り絵道 ⛩folkloreさん関連情報

平成13年生まれ。
切り絵、東アジア民俗学、日本文学、アニメなどを嗜好。
各地の神社仏閣や新宗教施設を巡ったり、切り絵を製作している。

Twitterアカウント:https://twitter.com/kirie_folklore

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