「葬祭では黒マスク着用」という葬祭マナーがSNSを中心に話題になっている。
発端は「8月の終わりに"通夜葬儀などの場合はマスクも黒にすること"というマナーを見かけた」という内容の女性の投稿。
これを受け、SNS上では
「白いマスクがダメなら...男性のシャツの白はどうなんですかねぇ。」
「怖いよぉ喪服集団が黒マスクで揃えたら謎のカルト教団みたいになるって」
「通夜葬儀など急な事態なんだから、喪服着るだけで精一杯ですよね。。。」
などと困惑する人が多いようだ。
しかし……
僕がいくつかのマナーサイトや葬祭関係サイトを確認してみたところ、以前から「葬祭でマスクはどうするべきか?」という疑問は多々あったようで、それに対しほとんどのサイトでは「着用可」であるという上で「白黒どちらでも構わない」、「白のほうが無難」という回答だった。
また6月にはモナコ公国のカロリーヌ公女とステファニー公女らロイヤルファミリーが黒マスク姿で葬儀に参列したという見出しのニュースがあったのだが、画像で確認したところ、ロイヤルファミリーや司祭の中には白マスクを付けた人もおり、マスクの色についてマナーやルールは存在しないようだった。
「葬祭では黒マスクを付けるべし」というのは新型コロナウイルス流行により公の場でのマスク着用が推奨される風潮に便乗してどこかのマナー業者が思いついた新マナーなのだろう。
なお、今でこそ「喪服=黒」というイメージが定着しているが、江戸時代までは喪服は白が一般的。明治時代になって欧米の葬祭マナーを取り入れつつ(時に誤解しつつ)、独特のミクスチャー様式に仕上がっていったのが現在の日本の葬祭マナーなのだ。葬祭に参列するからには死者を悼む姿勢は大切だが、個人的にはその細々としたマナーに本質的に重要な意味があるとは思えない。
いっぽう、明治日本がお手本にした欧米では葬祭もカジュアル化が進み、現代では一般的な葬祭では喪服を着るのは遺族くらいで、参列者の服装はせいぜいモノトーンのスーツやが多いという。日本でもそれくらいの意識になったほうが堅苦しくなくていいと思うのだが。
今回の黒マスクマナーのみならず、Zoomの画面表示に上座下座を作ろうとしたり、金属製の名刺入れが革製の名刺入れより劣っていると言ってみたり、度を過ぎた荒唐無稽ぶりが問題視される日本のマナー業界。日本人特有の強迫観念につけこんだこの浅はかな風潮にどこかで歯止めをかけなければならない。