埼玉県熊谷市で2015年9月14日と同16日に住民6人が殺害された事件から6年となる。強盗殺人などの罪に問われたペルー人、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告は一審の死刑判決が取り消されて19年に無期懲役が確定しているが、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し、寄り添ってきた遺族男性・加藤さん(48)の妻と娘2人の命日となる16日を前にした遺族の無念さを報告し、返却された遺品について「100%(犯人に)責任能力がある証拠」と指摘した。
15年9月16日に妻の加藤美和子さん(41)と小学5年の長女美咲さん(10)、同2年の次女春花さん(7)=年齢、学年はいずれも当時=を殺害された加藤さんの元には今年に入って埼玉県警から「押収していた証拠品を返却したいので受け取りに来てほしい」と連絡があり、2月に受け取った。妻子が殺害された時に着用していた衣類などで、包丁で切り裂かれた服の血痕から残忍さが伝わった。加藤さんは「服の血痕を見て、妻と娘は恐怖と痛みの中で亡くなったと思うと、本当に悲しみがわいてきて言葉にならないくらい切なかった」と心情を吐露した。
小川氏は「私なりに証拠品を見た時に、現場の様子がつぶさに伝わりました。娘さん2人の服には包丁で切られた痕跡があるんですが、その数は非常に少ない。犯人はむやみやたらに刺したのではなく、よく見ると、襟の部分、つまり頸(けい)部をピンポイントで刺しており、犯行は非常に冷静に行われたと思われます。奥様の洋服を見ると、背中からも刺されていた。おそらく逃げようとしたのにも関わらず、追って刺した。つまり、犯人はどこを刺せば殺害できるかが分かって行動しており、責任能力が100%あることが証拠品を見るだけでも分かる」と分析した。
さらに、小川氏は「美咲ちゃんの下着の股の部分を切り裂いていた。しかも、その下着に犯人の精液の跡が付いたまま、返却した警察は非常識です。加藤さんはそれを見て、またショックを受けた。高裁ではこのことには全く触れられなかった。理不尽で納得いかない気持ちが私にもあります」と疑問を呈した。
加藤さんも「急所を狙っていて、とても責任能力のない人の犯行とは思えません」と減刑理由となった「心神耗弱」との矛盾点を訴えたが、現状で判決が覆る可能性は極めて少ない。加藤さんは「司法に心を殺された気持ちは今も変わっていません」と、高裁での裁判員裁判と被害者の上訴権を求めている。
また、同事件の遺族は「埼玉県警が住民に十分な情報提供をしていれば家族は殺されなかった可能性が高い」として埼玉県を相手取り、約6400万円の国家賠償を求めている。加藤さんは「今までの裁判の中で警察からは全く謝罪がありません。むしろ、『自分の身は自分で守れ』的な発言すらある状態です。警察に対応してもらえたら、尊い命は奪われていなかったという気持ちが今も強いです」と心境を語った。
犯人逃走後に警察が告知しなかったことについては「住民に必要以上の不安を与えないため」との理由が示されたが、小川氏は「埼玉県警には事情があった。15年9月12日の土曜日に、埼玉県の警察本部長が現職の警察官が殺人事件の容疑者として逮捕され、その謝罪会見をしたが、翌日、この外国人に逃げられた。14日の月曜日に住宅地で夫妻が殺害されたが、その犯人が前日に逃げられた外国人とは簡単に発表できない。警察は何をやっていたんだということで、また謝らなくてはならなくなる。そして、16日に女性と加藤さんの妻子が続けて殺されました」と解説した。
加藤さんに戻された遺品のうち、血痕のついた衣類などは自宅には置かず、支援者の元に保管されているが、加藤さんは「次女が大事にしていた犬のぬいぐるみ」を手元に置く。「警察に何度聞いても『ない』と言われたぬいぐるみがようやく警察から帰って来て、今、お仏壇に飾っています」と明かした。
生きていれば、美咲さんは今年で高校2年生、春花さんは中学2年生。加藤さんは「自分の命より大切な妻と娘のために、このままでは終われない。これからも闘っていきます」と気丈に語った。