語順の異なる日本語と英語をどうやって同時通訳するの? プロが語る「同時通訳の裏技」が話題に

中将 タカノリ 中将 タカノリ

「同時通訳の裏技」がSNS上で大きな注目を集めている。

きっかけになったのは元高校英語教員で現在はフィリピンに住み米系企業の専属通訳・翻訳として活動するKengo Hitomiさん(@HitomiKengo)による

「日本語と英語では語順が異なり、日本語では『結論部分が文末に来る』ため、同時通訳ではしばしば問題が発生します。」

という投稿。

Hitomiさんは語順が違うことによっておこるトラブルの解決策として次のような例を紹介する。

◇ ◇

ある人が「東京はとても美しい町だと…」とにこやかに発言しているとき、通訳者が「Tokyo is a very beautiful city.」と結論まで同時通訳してしまいました。
すると発言者は「思いません」と締めくくってしまったのです。そのとき通訳者は慌てず騒がず、こう続けました。「Some people say so,but I don´t think so.」このように同時通訳では「結果的なつじつま合わせ」もしばしば行われます。

◇ ◇

確かにつじつま合わせだが、異言語間のコミュニケーションをスムーズにすることが通訳者の役目とするならば、このテクニックは非常に高度なものだと言えるだろう。

Hitomiさんの投稿に対しSNSユーザー達からは

「これは参考になりました!英語力のみならず、通訳のスキルも必要だと痛感…。日々研鑽していきたいと思います。」

「何は出して大丈夫か、繋がらなくなったらどう乗り切るか、しょっちゅう考えています。」

「なるほど!こやって辻褄合わせたらいいんだ!いつも最後まで待ってから訳してるうちに、だいぶ前に出てきた補語(SVOCのC)忘れそうになってヒヤヒヤしてたから、この技頂きや_φ(・_・」

など数々の称賛のコメントが寄せられている。

Hitomiさんにお話をうかがってみた。

中将タカノリ(以下「中将」):Hitomiさんもこの裏技はよく使われるのでしょうか?

Hitomi:まず語順の差で困るのは非常に高度なレベルの同時通訳者に限られると思います。というのは極めてリアルタイムな同時通訳をしていない限り、このような問題に直面することはなく、通常は「あとからのどんでんがえし」の有無を確認できるところまで耳にしてやっと通訳に入るからです。多くの場合、「同時通訳」といっても小刻みな逐次に近いスタイルを取っており、今回紹介したエピソードのような状況にはそう遭遇するものではありません。もし遭遇したらこのテクニックをいつか使ってやろうとずっと思ってはおりますが。

中将:通訳者として困るシチュエーションにはどのようなものがあるのでしょうか?

Hitiomi:私が通訳現場で困るのは主に「話者の強い訛り」などです。英語というのは共通言語として用いられているため、特に東南アジアにおいては中国、韓国、ベトナム、タイ、インドといった国々の発表者へ対応をする機会が多くなります。これらの国々の独自のアクセントや癖に、しばしば閉口します。時には発言のほとんどが「何をいっているのかさっぱり」なんてこともあります。

そういうときは小刻みに発言をさえぎってでも、それまでの発言内容を逐一確認しつつ、さりげなく発話スピードを遅くしてもらうようお願いしたりもします。そしてこちらとしてはできるだけ短時間にそういった英語に耳をならすことに努めます。

中将:訛りにも対応しなくてはいけないというのは盲点でした!確かに英語なんだけど何言ってるのか意味わからないことってありますよね…。

Hitomi:以前IBMのコールセンターでそういった国からの電話に対応していたことが大いに役立ちました。初心者のころは頭が真っ白になり、他のエージェントに電話を替わってもらったりもしたものです。でもいつまでもそういうわけにはいきませんので、腹をくくって全身を耳にしてインド人の英語を必死に聞くうちに、段々その訛りが心地よくなるから不思議です(笑)。

中将:一口に通訳と言っても、業者間の取引から専門的なセミナーまでさまざまなシチュエーションでお仕事されるでしょうから、柔軟な対応力が欠かせませんね。

Hitomi:当然ながら通訳は話の内容を理解しなければなりません。つまり特定業界の話において現れる様々な用語もさることながら、担当する業界での業務そのものを把握していないと通訳が困難です。通訳を依頼される会社はほとんどの場合、通訳を雇い慣れているので、最低でも2か月以上前に打ち合わせがあり、膨大な資料を提供してくれます。会議の場合、プレゼン資料もできるだけ早めにもらうようにして、すべてに目を通し、業界用語のリストを作って瞬時の「和英、英和」ができるための訓練をあらかじめ自らに課します。

たとえば工場の「チョコ停」という用語があります。これは「30分以内の一時的機械の不具合」を指すのですが、英語では「minor stoppage」といいます。このような用語は知らなければ日本語を聞いても何のことかわからず通訳できませんからね。それはもう大学受験直前以上に、頭から湯気を出して猛勉強、猛特訓するんです。通訳本番の所要時間から見ればずいぶん率のいい報酬を得ているかにも見えますが、そういう事前準備に要する時間を拘束時間と考えると、時間単価は微々たるものなんですよ。

中将:そういった事情についての世間の理解はまだまだ浅いかもしれません。

Hitomi:一番困るのは「通訳は呼べばすぐきてなんでも通訳する」と思い込まれている「通訳雇用に不慣れ」な人や会社ですね。お話したとおり、通訳者は十分な時間をかけて事前準備をして本番に臨みますので、「どの業界のどんな話」かも知らされず呼ばれても無理なんです。実際、とあるクライアントがフィリピンで会議する際に呼ばれたのですが、当日まで打ち合わせの機会もなく、当日も4時間以上早めに会場入りしたにも関わらず先方が到着したのは本番開始時刻をすぎてからでした。 遅刻自体は飛行機の遅延によるもので仕方なかったのですが、せめて何らかの形で事前の打ち合わせをさせてもらえないと…。それを「はい、今から!」という無神経さに「今回のご依頼はお引き受けするべきではないと判断します」とお断りして帰ってきたことがあります。仕事を紹介してきたエージェントすら私に恐縮していました。

他にも会場入りするとプレゼン資料と実際の発表内容が大きく差し替えられていて、私は手元の資料とまるで一致していなくて困ったことがあるのですが、その時は主催者側の上の人が「通訳さんは2か月かけて準備されているので、この場での内容差し替えはしないように」とすぐに注意を与えてくれました。

中将:なかなかヒヤヒヤする出来事ですよね…。さまざまなケースの現場を乗り越えてこられた上で、スムーズに通訳の役割を果たすコツをお聞かせください。

Hitomi:いろいろあるのですが

・とにかく動揺を顔や態度に出さない。

・発言者のお国訛りの強さを絶対見下したりせず尊重する 

・内容が理解できなくても、涼しい顔で発言者をさえぎって確認する

など、他の聴衆が「すべて順調に進んでいる」と感じるように場を納めることでしょうか。

英語が本当にまったくわからず、おやじギャグをかましてくる人に「He said a funny joke. Please laugh.」と通訳して場をしのぐというのも通訳者の間では知られたエピソードなのですが、「いつか私も使ってやろう」と思いつつ、まだその機会がありません。

中将:これまでのSNSの反響へのご感想をお聞かせください

Hitomi:Twitterを始めてまだ一週間足らずなので、1つの投稿が200万を超える閲覧数になったことに戸惑いを感じています。まだフォロワーさんたちの「こういう話が聞きたい」、「こういう話題が面白い」という需要をつかみ切れておらず暗中模索です。でも徐々にわかりつつあります。

Twitterは、閲覧者の反応が非常にわかりやすく、かつ即座にその反応を感じられるので、投稿する側としても高いモチベーションにつながっています。Yahooの知恵袋でも過去1万6千件以上の回答をしてきましたが、Twitterの閲覧者はレベルと品位の高さを感じます。多くの皆さんが楽しめて、英語学習や指導の参考となるような話題、そして時には他愛ない笑いをもたらせるような話題を今後も投稿したいと思っております。ネタ切れと戦いながら(笑)。

◇ ◇

今回の反響が通訳者という仕事へのさらなる理解の促進につながることを願いたい。

なおHitomiさんは英語学習サイト「英語で悩むあなたのために」やYouTubeチャンネルで、英語の学び方や発音について解説したり、翻訳にまつわる楽しいエピソードを紹介している。英語を学び始めた初心者から、通訳者を目指す上級者まで活用できる内容なので、ご興味ある方はぜひチェックしていただきたい。

【Kengo Hitomiさん関連情報】

Twitterアカウント:https://twitter.com/HitomiKengo
英語学習サイト「英語で悩むあなたのために」:http://roundsquaretriangle.web.fc2.com/new/index.html
YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/user/kenkenken9876/featured

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