吃音の当事者が接客する「注文に時間がかかるカフェ」 社会的な理解、関心深まるきっかけに

黒川 裕生 黒川 裕生

吃音の当事者がスタッフを務める1日限定のプロジェクト「注文に時間がかかるカフェ」が8月下旬、東京都内で開かれた。高校1年生から大学4年生までの3人が「吃音があるせいで諦めていた」という接客の仕事を体験。来店者にそれぞれ「話すのはゆっくりですが、最後まで聞いてください」などと吃音の症状を説明した上で、ドリンクやポップコーンを提供した。時間も人数も限られた試みだったが、同じく吃音当事者でプロジェクト発起人の女性は「吃音の認知や理解が深まるきっかけをつくることができた」と手応えを語る。

「話すために少し時間をください」

カフェ店員に挑戦した男子高校生のマスクに書かれた文字だ。

話し言葉がスムーズに出てこない「吃音(きつおん・どもり)」の発症率は幼少期の8%前後とみられ、国や言語による差はほとんどないとされている。目に見える障害ではないこともあり、社会的な理解不足と不寛容に苦しむ当事者は日本でも少なくない。

カフェにスタッフとして参加した3人は全員、自分以外の当事者に会うのが初めて。慣れない接客業務に緊張しながらも、「吃音で悩んでいるのは自分独りではない」ことに気づかされ、心強さを感じた様子だったという。

店を訪れたのは事前予約した10人ほどで、吃音のことは「聞いたことはある」程度の人ばかり。店内では注文を通して当事者と触れ合い、吃音をテーマにしたアメリカのドキュメンタリー映画「マイ・ビューティフル・スタッター」を鑑賞した。終了後のアンケートには「吃音の理解に役立つ試みだと思うか」という問いに、全員が「はい」と答えたそうだ。

カフェの運営を担当した発起人の奥村安莉沙さんも幼少期から、意思疎通が難しいほどの難発吃音を抱えてきた当事者。吃音は成長に伴って症状が治まるケースもあるが、奥村さんは逆に悪化し、「就職面接では自分の名前を言うので精一杯という状態だった」という。交通事故に遭ったときは助けを求める声を出せず、命の危険を感じたこともあった。

自身の苦い経験を踏まえ、現在は啓発活動に奔走。当事者の声を募り、吃音に対する理解や関心を深めようとSNSなどで発信を続けている。「マイ・ビューティフル・スタッター」の字幕翻訳・配給・宣伝を自ら買って出、学校などでの上映会も企画。NHK Eテレの番組「ドキュランドへようこそ」でも放映されるなど、反響が広がっている。

「カフェは今後も希望があれば各地で実施したい」と語る奥村さん。職員として参加するNPO法人「日本吃音協会(SCW)」でも精力的に活動しており、9月15日からは吃音当事者を支援するオンラインサロン「Stutter Story's」をスタートさせる。詳しくはSCWのサイトやTwitterで。

【SCWサイト】https://lit.link/nposcw

【SCW Twitter】@KituonScw

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