飲料の味覚の強さとコップの色の関係を調べた千葉大学の研究で、黄色で酸味、ピンク色で塩味が増す効果があることが確認されました。食器の色で減塩や糖質制限にもつながることも期待されています。ということは、もし甘味を強化する色が発見されたら…ダイエッターの皆さん、研究の進展に注目ですよ!
千葉大学文学部2019年卒業生の岡田和也さん、大学院人文科学研究院の一川誠教授(実験心理学)は、さまざまな飲料の味覚(甘味、苦味、酸味、塩味)の強さについて、中身が見えない状態で容器の色がどのような影響するかを研究。2021年7月20日に日本視覚学会出版の学術誌VISIONに掲載されました。
容器の色が飲料の味覚に影響するという報告はこれまでにもあります。たとえば、カフェオレを白色の容器で飲むと、青色や透明のそれの場合より苦味が強く感じられます。また、茶色の容器で飲むコーヒーや橙色や茶色の容器で飲むチョコレート飲料は、味がより濃く感じられるという研究結果もあります。ただ、これらの研究では、容器の色による味覚への影響が、特定の飲料のみで生じるのか、他の飲料でも生じるのかは分かりませんでした。また、飲料自体が直接見える状態だったため、生じた効果が容器の色によるものか、飲料と容器の色のコントラストなどによるものかも不明でした。
岡田さんと一川教授の研究では、甘味・苦味・酸味・塩味のいずれかを強調した4種の水溶液(ショ糖、塩化マグネシウム、クエン酸、食塩)を用意し、容器を白、黒、赤、黄、青、緑、ピンク、茶の包装紙で覆い、中身を見えないようにしました。その上で、実験に参加した人は、アイマスクをした状態とコップの色が見える状態で試飲し、アイマスク装着時を基準に甘味、苦味、酸味、塩味の強度を11段階で評価。また、容器の色からイメージされる味と飲料の実際の味が一致している程度を「調和度」として7段階で評定しました。
その結果、飲料自体の色とは関係なく、コップの色は飲料の味覚を強めたり弱めたりする効果が判明しました。苦味は黒や青、酸味は黄、塩味はピンクのコップで強く出ていました。ただし、ショ糖(甘味)については強める色はなく、黒や緑、青で弱く出ていました。調和度は、黄と酸味との間は高く、緑と甘味との間のそれは低いことから、ことから、色と味との調和度が味覚強度の強調や低下に関わっていることが示唆されました。ただし、ピンクと塩味の間の調和度は中程度であったことから、色と味の調和度が、容器の色が味覚強度を強調する唯一の必要条件ではないことも示されました。
研究に対して、SNSでは「明日から味噌汁はピンクのお椀(娘のお下がり)に決定」「家系ラーメンは青より黒い丼の方が美味しく感じる」「かき氷のシロップの色に通じるものがある」などとユーザーがコメントが。一川教授に聞きました。
―コップの色が味覚に影響するのはなぜですか。
「黄色による酸味の強調、黒・青・緑による甘味の減少は、容器の色からのイメージと飲料の味の調和の高低による影響と考えています。黄は酸味をイメージさせることから酸味を強調しますが、黒・青・緑は甘みとイメージが合わないため甘味を弱めると考えています。一方、ピンクは塩味を強めましたが、ピンクは塩味と調和が高いわけではないので、他のメカニズムが寄与していると考えています。イメージにおける調和ではなく、過去の経験が関わっている可能性を調べています。焼いた肉や魚などピンク系統で塩味系の食材を食べた経験によって形成される連想のかかわりを検討していところです」
―甘味を強める色はありませんでした。
「容器の色彩による味覚強調(低下)のメカニズムが特定できれば、将来的には『甘味を増強する色』も夢ではありません。糖質制限に寄与できるのではないかと考えています」
―飲料自体の色彩の効果について、しくみは解明されているのでしょうか。
「水溶液自体に色をつけた研究の方が古く,体系的な研究がMagaという研究者によって1974年に報告されていますが、容器の色彩による効果とは異なっていました。例えば、飲料自体に色をつけた場合、黄色はむしろ酸味を弱め、緑は甘みを強めたという容器の色とは逆の効果が報告されています。また、私たちの研究では見つからなかった効果として、赤が苦味、黄が甘味、緑が酸味を弱めたことが報告されています。こうした飲料自体の色彩の効果についても、基礎にあるメカニズムがまだ特定されていません。そのため、飲料自体の色彩と容器の色彩との効果の違いが生じる理由もまだよくわかっていません」
―SNSでは、かき氷のシロップの色にたとえるコメントもありました
「今回の研究は、飲料の味に容器の色が及ぼす効果を調べたものですから、かき氷のシロップの効果とはいろいろと異なるだろうと思います。もちろんかき氷の色彩が味や風味に及ぼす影響についても研究はあり、同じ味でも色が変わると感じ方が変わるようです。とはいえ、この効果に関しても.基礎にあるメカニズムの解明までは至っていないようです」
―透明はどうですか。数年前にカフェオレやコーラの透明飲料が発売されましたが、一過性だったように思います。
「見た目がイメージと合わないと、味だけではなく、香りも含めた風味が弱められることが想像されます。話題作りにはなるでしょうが、美味しくいただくという観点からすれば、透明飲料にはあまり利点はないように思います。透明飲料に限らず、通常と違う色彩の飲料は、「目で味わう」という人間独特の多感覚的な特性をあまり考慮していないように思います。そうした特性をつけることが美味しさを強めるために必要な操作であれば別ですが、物珍しさしか売りがないのなら存続するのは厳しいのではないでしょうか」
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▽論文はこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/vision/33/3/33_117/_article/-char/ja/
▽千葉大学のリリースはこちら
https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2021/20210730_1.pdf