「奥の車の方が大きいよね…」。この画像を見かけた多くのツイッターユーザーはこうつぶやいたのではないでしょうか。記者もそう思いました。定規で測りました。そして知らされる驚愕の事実―。
立命館大学総合心理学部教授の北岡明佳さん(知覚心理学)が、理論心理学会第66回大会(オンライン、12月7日~12月20日)において、講演を告知する投稿に添えた画像が話題です。鳥取県と島根県の境にある通称「ベタ踏み坂」(江島大橋)の写真をコラージュしたものですが、手前と奥の車は同じ大きさですが、どう見ても大きいのは奥の方。記者の目には少なくとも2割増はデカい。でも実測するとやっぱり同じ。この謎を北岡さんに尋ねました。
―奥の車が大きく見えます。
「その錯視(視覚性の錯覚)は、『遠くにあると知覚される対象の網膜像の知覚は近くにあると知覚される対象の網膜像よりも若干大きく見える錯視』です。私は『回廊錯視』と呼んでいますすが、『大きさの恒常性』と呼ぶ研究者もいます」
―「脳が勝手に判断してしまう」ということなのでしょうか。このような脳のメカニズムについて解明されているのでしょうか。
「最初の質問は、知覚レベルの現象ですから、そういうことです。そのようにできている、ということになります。解明については、現象を説明するモデルはいくつも立てられると思いますが、私が納得する説明はとりあえず存じません」
―2割増ぐらいに見えました。
「この画像は、錯視量(錯視の強さ)が格段に多いです。大きさの錯視は、その錯視量が1割もあれば(網膜像が同じ長さ・大きさのものを比較して、知覚される長さ・大きさの差が、一方を1.0とすると1.1あるいは0.9もあれば)相当強力ですが、この錯視はもっと錯視量は多そうです。私は正式に測定したデータを持っておりませんが、十分驚ける錯視であると言えます」
―当たり前ですが、作成した側も。
「私は130(3割増)くらいかな~。ということは、私には遠くのものが3割増しの大きさに見える錯視ということになります。知覚心理学では、たとえば10人あるいは20人の観察者の測定値を平均したものを、その錯視の強さとして論文や学会や発表することが多いですが、錯視は個人の体験ですから、一人一人のデータにも意味があります。自分の錯視量が平均値からズレていても、自然な個人差であり、全く問題ありません」
取材後、北岡さんから錯視図の“最新作”がメールで届きました。研究室の前の廊下で、ダルマを使って作成したものです。「手前のリアルな物体を小さめに撮影するのがコツのようです」とのことで、やっぱり奥のダルマが大きく見える!
北岡さんのページには、デザインや写真などさまざまな錯視作品がアップされ、中には動いて見える作品もあります。不思議な世界に浸りたい方はぜひ。
■日本理論心理学会第66回大会 https://sites.google.com/view/theory66/
■北岡明佳の錯視のページ http://www.ritsumei.ac.jp/~akitaoka/