「死ぬまで続けたい」大事故を乗り越え、繊細で美しいカービングを作り続ける男性が、伝えたいこと

渡辺 陽 渡辺 陽

大阪府に住む山下純輝さんは、老人ホームで調理師をしながらスイカや野菜に美しいカービングをほどこしています。そこには並々ならぬ努力と大事故からの再起の物語がありました。山下さんにカービングを始めたきっかけや今後の夢について話を聞きました。

他の人にないものを身につけたい

――なぜスイカのカービングを始めたのですか。
「今の職場に入った時、料理を今までしたことがない自分がやって行くにはどうしたらいいか考えたんです。その時に思い出したのがカービングでした。味付けや作業の速さで勝てないので、他の人に無いものを身につけたかった。たまたま知り合いの方がカービングの教室に行ったという話を聞いて、私も通うことにしたのです。5年前くらいだと思います」

――スイカ以外の果物や野菜のカービングもされるのでしょうか。
「スイカだけではなく、大根やニンジンにも彫ります。ハロウィンの時はカボチャに彫ることもありますし、石鹸も彫れます!」

――スイカの場合、ひとつ彫るのにどれくらい時間がかかるのですか。
「一つ完成させるのに3から5時間かかります。一気に彫るときもあれば二日に分けることもあります。

死んでもおかしくない事故、リハビリを乗り越えて

――ずっと続けている理由は?
「3年前くらいに一度大きな事故にあったことがあるんです。左手首と左足、首も動かなくなってしまって、カービングどころか仕事も諦めていた時に、お見舞いでいただいた果物を見てもう一度果物でカービングをやりたいと思いました。毎日毎日必死にリハビリして、今では普通に動くようになっていますが、死んでいてもおかしくなかった事故だったそうです」

――そこから再起されたのですね。
「1年くらいはまともにカービングナイフも持つことができなかったのですが、少しずつ、少しずつ感覚を取り戻していきました。続けている理由の一つに、その時お見舞いに来てくれたたくさんの方たちにカービングを見てもらうことが、自分の体がこんなに良くなったという報告と恩返しになると思って続けています。これからもたくさんの作品を見てもらいたいので頑張ります!」

彫り始めるまでが大変

――テーマはどのようにして決めるのですか。
「人にプレゼントする時は、その人が好きなキャラクターやお祝いの言葉を入れます。あとはイベントを大事にしています。父の日、母の日、海の日、あとは丑の日とか。職場は老人ホームなので、いつ依頼が来ても期待に応えられる作品を作れる実力をつけたいと思いながら彫っています」

――どんなところが一番難しいのでしょうか。
「彫りはじめるまでが大変です。スイカの完成図をまず決めてから彫り始めていくのですが、なかなか配置なんかが決まらず、頭で考えながら2、3日ナイフを持たない時もあります。プレゼントする時は考える時間が長くなります」

――いままでで一番思い出に残っている作品は?
「初めて人にプレゼントしたのは今一緒に住んでいる人なのですが、人参に薔薇を彫ってプレゼントしました!普通の花をプレゼントするよりきっと喜んでくれたと思うし、カービングやっていて良かったです」

死ぬまで続けたい

――今後の夢はありますか。
「いろんな人やお店にプレゼントできる人になりたいです。いま写真の勉強もしているのですが、スイカは食べたら無くなるから、きれいに撮影した写真と一緒にプレゼントできたら喜んでもらえるのではないかと思っています」

――これからもずっと続けていきたい?
「手作りのものを、自信を持ってプレゼントできる人には魅力的な人が多いと思うんです。自分の経験で手作りのマスクをいただいたことがあるのですが、すごく嬉しく思いました。私も自信を持ってプレゼントできるカービングの実力を身につけて、たくさんの人に喜んでもらいたい。死ぬまで続けたいです」

◇  ◇

コロナ禍、作品を作っても直接手渡すことが難しくなっていて、写真を見てもらうだけにとどめることもあるといいます。山下さんは、一日も早くコロナが収束して、贈った人の笑顔を見られることを願っているそうです。

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