今年も防衛白書が発表された。毎年のように、日本周辺の国々の軍事情報や安全保障情勢が掲載されている白書だが、今年は「中国」に関する記述が目を引く。中国の不透明な軍事力増強を考えると当然のことでもあろうが、31ページにも及んでいる。
特に中国海警局に武器使用を認めた「海警法」に強い懸念が示され、「適用範囲が非常に曖昧で国際法に違反する場合がある」と指摘されている。海警法は海警局を「準軍事組織」と位置付け、外国船が中国の主権や管轄権を侵害した場合、武器使用を含むあらゆる必要な措置を取ることができると規定している。また、その海警局の船舶が過去最長の57時間以上にわたって尖閣諸島の領海に侵入したことも記述され、中国への強い警戒感を示している。
また、今回は米中関係に関する項目が初めて追加された。米中関係について、防衛白書では、「政治・経済・軍事にわたる競争が一層顕在化してきている」と指摘された。
バイデン政権になっても米中対立は続くどころか、むしろ対立が激化している。トランプ前政権は単独で中国に対抗してきたが、バイデン政権は日本や欧州などの同盟国や友好国と協力しながら中国に対抗する戦略を進めており、中国側のバイデン政権への警戒心はトランプ前政権以上ともいえる。経済を巡る争いも激しくなり、ウイグル人権問題を巡ってバイデン政権は関連する中国企業を次々に制裁リストに追加し、中国側も6月に反外国制裁法を異例のスピードで可決するなど、米中対立は多層的な対立となっている。
さらに、今回の防衛白書では「台湾情勢の安定」についても「日本の安全保障だけでなく国際社会の安定にとっても重要であり、緊張感を持ってその動向を注視する必要がある」と初めて言及された。
台湾を巡っては、今年春のワシントンD.C.での日米首脳会談、また、6月の英国・コーンウォールでのG7サミットの首脳声明で強い懸念が示された。一方、習近平国家主席は7月、北京で開催された中国共産党創立100周年を記念する式典において、「台湾独立は断固粉砕しなければならず、台湾統一は共産党の歴史的任務だ」「中国人民は外国勢力の圧力には絶対屈せず、そういった動きは必ず悲惨な目に遭うだろう」などと発言し、関係当事国間の対立はさらに深まっている状況だ。
どういう意図で発言したかは定かではないが、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は3月、上院軍事委員会の公聴会において、中国が今後6年以内に台湾に侵攻する可能性があり、軍事力で米国を追い抜き、武力で地域秩序の現状を変更しようとする時期が早まりつつあると警戒感を露にした。6年以内に台湾を巡って何か大きなことが起こるとは考えにくいとの意見が専門家の間でも多いが、今後も予断を許さない状況が続くことだろう。
今年の防衛白書ではそのほか、北朝鮮やロシア、宇宙やサイバーについてふれられ、気候変動と安全保障の項目についても初めて記述された。しかし、全体的にはやはり中国の軍事力増強や海洋覇権に重点が置かれている。
中国を巡っては様々な見解があるが、軍事力を向上させ、米国に接近していっていることは事実である。日本との防衛力とも、ますます開きが生じるであろうし、この流れが中長期的に続くとなれば、今後10年、20年、30年と時が進むにつれ、日本周辺の安全保障環境も必然的に変わってくる。防衛白書における中国への記述はこれからもいっそう増加することが予想される。