1895年にフランスのリュミエール兄弟によって、世界で最初の映画といわれる「工場の出口」が上映されてから120年あまり。日々の中に欠かせない一大エンターテイメントとして数え切れないほどの映画が制作されてきた。その中で、“サメ映画”がいくつあるかご存知だろうか?
サメ映画といえば、筆者は「ジョーズ」を真っ先に思い出す。公開された年には海を訪れる観光客数が減ったほどの、サメ映画の金字塔だ。では、その他はどうだろう?「はて、何があったかな…」と小首をかしげた、そんなあなたにぜひ読んでほしい、マニアックな解説本が7月15日に左右社より発売された。
YouTubeチャンネルの登録者数は11.9万人、月刊誌でも映画コラムを連載するなど、人気のサメ映画ライター・知的風ハットさんによる初の単著、その名も「サメ映画大全」だ。
日本未公開を含む約100作品が徹底解説されており、インパクト絶大の本書だが、目次の時点で圧倒的な情報量と造詣の深さに驚きを隠せない。この読書体験がただならぬものになりそうだという期待と得体のしれない不気味さが、深いところから静かに迫ってくるような気すらする。
「サメ映画ってこんなにあったのか…!」という驚きはもちろんだが、各作品のデータによって、世界中のあらゆる国で制作されている事実に気付かされる。「ジョーズ」を制作したアメリカが圧倒的に多いものの、イギリス、イタリア、ドイツ、スペイン、さらにはメキシコ、フィリピン、カナダ、ブルガリアといった幅広さだ。
我らが日本が制作した純国産サメ映画も紹介されている。気になる内容は…その目で実際に確かめてほしい。
一口にサメ映画と言っても、ストーリーや表現のアプローチがこんなにあるのかと、100作品以上が網羅されているからこそ気づく。機械仕掛けの模型を使った作品もあれば、何と本物のサメを“起用”した作品まであるのだ。野生のサメを前に俳優がアクションするなど、多くの人が考えもしないアプローチだろう。これをプロ根性と呼んでいいのか、悩むところだ。
なぜ今、サメ映画?
執筆期間は実に1年5カ月というこの大作。時には辛口なコメントもあるが、サメ映画への著者の深い愛を感じずにはいられない。そもそもどういった経緯で出版が企画されたのか、担当編集者である左右社の青柳諒子さんに話を聞いた。
「“サメ映画”をテーマにした本を作りたいと、私からご相談をさせていただきました。当初はもっとネタ本のようなイメージで考えていたのですが、知的風ハットさんから網羅的に解説した本にしようとご提案いただき、このような形になりました」
もともとサメ映画が好きで、知的風ハットさんの動画をよく見ていた青柳さんがオファーしたことから出版が実現したという。この本に出合うまで、サメ映画というジャンルを意識したことがなかった筆者にとって、文化とはこうして創られていくのだなと感慨深い思いがした。
左右社といえば、昨年の緊急事態宣言発令直後からの77人による“仕事”日記をまとめた「仕事本」、クセの強いおじさん役で唯一無二の存在感を発揮し、おじさん街道を駆け抜けた元タカラジェンヌによるエッセイ「こう見えて元タカラジェンヌです」が記憶に新しい。かと思えば、哲学や国際政治などの学術分野から建築、アートを扱った美術書など幅広く、興味深いタイトルを次々と出版している。
その左右社が手掛ける最新刊は、水中から襲いかかるサメの恐怖をあおる表紙が目を引く。が、絵のタッチから漂うゆるさのギャップが、なんとも言えない、いい味をかもし出している。つぶらな瞳をしたサメのイラストに添えられた帯には、こう書いてある。
「サメ映画には無限の可能性がある。『ジョーズ』を超えること以外は」
時には便器の中からも襲い掛かる!!という一文も「ジョーズ」というビッグタイトルに挑んだであろう、多くのサメ映画の歴史が詰まった一冊であることを端的に物語っている。
この夏は「サメ映画大全」を手に、サメ映画の海ならぬ沼にどっぷりとはまってみると、新たな世界が拓けそうな予感しかしない。サメ映画の沼、マリアナ海溝より深そうだ。
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サメ映画大全
著 者:知的風ハット
発売日:2021/7/15(Amazonでの発売は7/22)
出版社:左右社
定 価:2,200円(税込)