東京五輪“強行”に怯える海外進出企業 「ヘイトクライムの標的に」「日本人であることを隠さねば」

治安 太郎 治安 太郎

東京五輪の開催是非については、依然として政治と国民の間で大きな乖離が生じている。これについて多くのメディアが世論調査を実施しているが、依然として中止や延期を求める声が過半数を占め、ウエルカムされる形で実施されることは厳しい情勢である。しかし、欧米諸国や中国などは東京五輪開催を支持し、選手団や報道関係者の派遣などを着実に進めており、IOCの意向もあり日本政府ももう後戻りはできないというのが実情だろう。このまま開催されれば、反五輪を掲げる人々が開会式や閉会式で抗議デモを行うことも想像が付く。

一方、東京五輪の開催についての影響は何も日本国内に留まらない。周知のように、オリンピックは世界が注目するイベントであり、毎日のように各国で競技の結果が報道され、世界的な影響力を持つ。よって、危機管理的な視点からは、海外に滞在する邦人の安全に悪影響が出ないかも検討する必要があろう。治安面で懸念される事例は色々考えられるが、ここでは新型コロナパンデミックに由来するアジア系へのヘイトクライムと関連づけて考えたい。

米国でのアジア系ヘイトクライム、昨年の5倍に

コロナパンデミック以降、米国を中心に欧米諸国ではアジア系住民が突然殴られたり、殺すなどと脅迫を受けたりするヘイトクライムが後を絶たない。実際、日本人が被害に遭う事件も発生しており、日本外務省も注意喚起を発信している。最新のニュースによると、米国ではアジア系へのヘイトクライムが去年から今年にかけて5倍に増えているとの報告もあり、油断を許さない状況が続いている。この急激な増加に示されるように、新型コロナによって日常生活を規制され、経済雇用的な被害を受けたと中国へ不満や憎悪を抱く人々も決して少なくなく、中国がコロナからの復興や経済成長を内外に強調することによって、そういった不満や憎悪にさらなる拍車を掛ける恐れもある。

そのような中、日本が東京五輪を開催するとなれば、「我々が未だに中国由来のコロナ被害(経済雇用を含む)に直面しているのに、日本はオリンピックを開催するのか」などとして、意図的に不満や憎悪が日本に向けられ、日本人がそういった暴力や嫌がらせを受ける可能性も否定はできない。

欧州でも「五輪中止派」が過半数…不安募らせる駐在員も

これについて、おそらく考えすぎだと思う人もいることだろう。しかし、実際、海外に出る日系企業の担当者や駐在員たちと話していると、少なからず心配の声が聞かれる。特に、欧米に滞在する駐在員たちからは、「コロナ由来のヘイトクライムはリアルに恐怖を感じてきたが、東京五輪の開催でさらに標的にならないか懸念している」「周辺には五輪支持者もあれば、反五輪を掲げる人も少なくない、反五輪の声が高まれば日本人であることを隠して街を歩くかも知れない」「最近周りではロックダウンが緩和され、人々の外での活動も多くなってきた、犯罪に便乗する形でそういったヘイトクライムの増加を懸念する」などの声が聞かれ、今後の動向を注視していた。

最近明らかになった調査によると、東京五輪が開催されるかどうかの問いで、中止派がフランスで58%、ドイツで57%、スウェーデンで55%、デンマークで51%、英国で50%と過半数を超え、フランスやドイツでは中止派が開催派の数字の2倍以上となったという。これは開催されるかどうかのアンケートで、開催すべきかどうかのアンケートではないところを理解する必要あるが、1つの参考にするべきだろう。

日本は、東京五輪をコロナからの復興五輪と位置付けたいはずだが、それに嫌気を感じる人々も決して少なくない。日本国内のリスクだけでなく、それによる海外へのリスクも十分に検討すべきだろう。

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