「偉いね」「いい子だね」と言われ続けて…自覚なく家族の世話に追われる日々 ヤングケアラー問題が深刻化

長岡 杏果 長岡 杏果

皆さんは「ヤングケアラー」という言葉を聞いたことがありますか? ヤングケアラーとは法令上の定義はありませんが、一般的に大人が担うと想定される「家事」や「家族の世話・介護」などを日常的に行っている18歳未満の子どものことをいいます。ヤングケアラー問題は早期発見が重要であるにもかかわらず、問題が表に出にくいためその実態の把握が難しく、近年深刻な社会問題となっています。

今回取材を受けてくれたのは関東在住のMさん(16歳・高校生)です。Mさんは中学3年生の春まで、自分がヤングケアラーであることに気づかずに毎日家族のケアをしていました。

周りの人が褒めてくれた小学生時代

Mさんは両親と2歳下の弟の4人暮らしです。父親は仕事で単身赴任、母親は正社員として働き、2歳下の弟は知的障害があり特別支援学校に通っていました。小学生のときから仕事が忙しい両親に代わり、Mさんが弟のケアをしていました。

母親の帰りが遅いときは、スーパーでお弁当を買ってきたりお風呂の準備や弟の着替えの手伝いをしていました。時には掃除や洗濯も頼まれることがあったため、友達と遊ぶ時間はありませんでした。弟と一緒に買い物に行くMさんの姿を見て近所の人は「弟の世話をして、いい子だね」といつも褒めてくれました。また母親からも「いつもありがとう」と言われることがうれしくて、友達を遊べなくてもいいと思うようになっていたのです。

弟の成長と母親の病気でさらに忙しくなった中学時代

Mさんが中学校に入学した頃、母親が心の病気を患ったことで、弟のケアに加えて母親のケアも必要になりました。そのため中学生になったら吹奏楽部に入り、トランペットを吹きたいという夢を両親に話すことなくあきらめたのです。

母親の病気を機に父親は単身赴任先から自宅へ戻りましたが、父親の仕事は忙しく、家のことはMさんが行うという生活は変わりませんでした。Mさんが中学3年生になった頃、母親が入院したため家事全般をMさんが担うことになりました。

Mさんは高校受験を控えていたこともあり、勉強しなければと思う一方で、家族のために家事も頑張らなけれないけないと必死でした。そんなMさんに両親や近所の人は、小学生だったあのときと同じように「ありがとう」「偉いね」と声をかけてくれました。

誰も気づくことができなかった現状

Mさんがヤングケアラーではないかと最初に気づいたのは、母親が入院した病院のソーシャルワーカーでした。母親の「娘のMにまかせっきりで。Mの頑張る姿を見て私は仕事を頑張りすぎた」という言葉を聞いたソーシャルワーカーは、これまでの生活状況についてMさんの父親に話を聞きました。その話の中でMさんが幼い頃から日常的に弟と母親のケアを行っていることがわかったのです。

Mさんは自分が「ヤングケアラー」であるという自覚もなければ、「ヤングケアラー」という言葉も知りませんでした。母親の入院をきっかけにMさんの家には支援者が入るようになり、Mさんの負担は減りました。

高校生になったMさんは「両親が喜んでくれるから」「遊びたいと思ったときもあったけど、みんなが褒めてくれるから」という思いで、毎日家族のケアをしていたと話してくれました。Mさんは、いま弟や母親のケアをしてくれる支援者や父親のおかげでずっと中学生のときから憧れていた吹奏楽部に入部できたと笑顔を見せてくれました。

ヤングケアラーは本人や家族自身がそうした認識がないことや、家の中で起きていることであるため周りの人が気づきにくいという点が深刻な問題となる原因です。こうしたヤングケアラーは年々増加傾向にあります。コロナ禍で人とのつながりが持てないときだからこそ、地域や学校、その他の機関で子どもの声なきSOSを逃さないようにすることが大切です。

今回の取材を通してヤングケアラーがどういったことであるのか、いま深刻な問題になっているということを広く知ってもらうような活動や子どもへの教育が必要であると強く感じました。

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