「雪のように儚い命だったとしても」瀕死だった野良猫、今では大学教授の“助手”に!「白雪姫だったのかな」

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

「餌がもらえるなら野良猫でも良いじゃないか」

保護猫活動に関心のない方は、そう思われるでしょう。しかし、家の中にいる猫よりも野良猫はずっと平均寿命が短いという現実があります。交通事故に遭ったり病気になったりで、どうしても若くして命を落とす猫が多いのです。

福岡県に住むキョナちゃんも命を落としそうな野良猫の1匹でした。彼女は福岡県のとある海辺の出身。ある時、保護猫団体が餌やりにいくと、息も絶え絶えなキョナちゃんを発見します。このままでは命が危ないと、その場で保護されました。

保護をしたのは、福岡大学経済学部の山崎好裕教授の妻。長年、猫のために尽力をしている方です。この時、山崎教授は海外で開催された学会に出席中。経済について世界中の知識人と議論を交わしていると、妻から連絡が入ります。

「猫が増えました」

山崎教授はビックリ。すでに家には4匹の女の子の猫たちがいます。それに、58歳の自分はもう猫を飼うのを止めようと思っていたからです。例え70歳の定年まで働けたとしても、それ以上猫が生きる可能性が高い。経済的に安定しているうちだけ、猫と暮らそうと思っていたのに……。

さてどうしたものかと、隣にいたアメリカの女性学者に妻からの連絡を伝えると彼女は、

「分かる」

と笑いながら言いました。夫が海外に行っている時だからこそ、猫が増えるようです。

急いで帰国し、キョナちゃんと対面です。風邪をひいていることは知らされていましたが、思ったよりも状態が悪い。動くたびに咳き込み、鼻水は止まりません。獣医師からは失明の可能性も示唆されていました。

「雪のように儚い命かも知れない。だからこそ、精一杯可愛がろう」

山崎教授は妻と交代しながら必死の看病をします。この先、生きていられる確率は五分五分だろうと夫妻は考えていました。短い猫生であっても幸せであってほしい。大切に大切に育てられます。

足しげく病院に通い、治療方針を獣医師と相談します。キョナちゃんは一生懸命自分のために山崎教授や獣医師が力を尽くしてくれると分かっていたのでしょう。動物病院にいくたびに、ゴロゴロ喉を鳴らすのだそう。それもゴロゴロ音で心音が聞こえないほど。

4匹いるお姉ちゃん猫たちよりも、ずっと手がかかった末っ子のキョナちゃん。この手厚い看病が実を結び、とても元気になりました。想定外の「娘」の誕生で、山崎先生の気持ちも若返ります。

今ではキョナちゃん、山崎教授のお仕事を手伝う孝行娘になりました。お手伝いというのは、講義の出席率を上げるというもの。現在、福岡大学もリモート講義を取り入れており、山崎教授の講義もリモートです。講義にキョナちゃんが登場すると学生たちは大喜び。サボる学生はほとんどいなくなりました。

YouTubeでもお手伝い。山崎教授のチャンネルの動画は、キョナちゃん登場回の再生回数が桁違いに良いのだとか。山崎教授がキョナちゃんに動じず、淡々と講義を続けているのもウケている要因なのだそう。

こんなに元気になるとは、山崎家にやって来た時に誰が想像したでしょうか。今のキョナちゃんは幸せそのものです。まるで御伽噺のお姫様のよう。

実はキョナちゃんの本名は「キオーン」。ギリシャ語で「雪」という意味です。雪のように儚い命かと思われましたが、今となっては白雪姫の「雪」の方だったと分かります。

白雪姫は王子様のキスで死の淵からこの世に舞い戻ることが出来、幸せな生活を送りました。一方キョナちゃんは、山崎夫妻の愛情が王子様のキスだったよう。先住猫たちも7人の小人のように、キョナちゃんが元気になるのをサポートしてくれました。優しい姉たちです。

山崎教授はキョナちゃんが幸せであることが幸せで、気持ちがあふれだしてしまい散文詩や短歌を詠んでいるとのこと。そこにつづられているのは、キョナちゃんの命の輝きです。

すっかり元気になった今、山崎教授がキョナちゃんに望むことは何もありません。今元気でいる。ただ、それが嬉しい。

美しいキョナちゃんのブルーの瞳は、そう言い喜んでくれる山崎教授夫妻を毎日映しています。

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