左右の目の色が違うオッドアイが印象的な黒猫の太陽くん。かつて左目の「失明」を宣告されたことがありました。
2017年、太陽くんは複数のボランティアさんからごはんをもらう“地域猫”でした。中村令子さんもその一人だったのですが、夏前からひどい目やにと鼻水を出し、目の前にいるのに遠くから声が聞こえるような、か細い声で鳴くようになったと言います。
「最初は猫風邪かなと思ったのですが、そのうち左目がおかしくなって、薄目かつむっていることが多くなりました。そしてある日、大量の目やにで目が開かなくなっていたんです」(中村さん)
実は中村さん、猫の保護活動を個人で行うために家を購入、リフォームの最中でした。一時保護して病院へ連れて行くか、家が完成するまで待つか…放っておけないと判断した中村さんは前者を選択します。目薬を処方してもらい、元の場所に戻して治療していくつもりでしたが、一日に5~6回の点眼が必要になり、そのまま保護。想定外だったのはそれだけではありません。ノミ・ダニ駆除薬をもらいに別の病院へ行くと、今度は「緊急手術しないと失明する」と驚きの宣告を受けたのです。
診断名は「デスメ膜瘤」。角膜の最深層、眼球に一番近いところにあるデスメ膜まで傷が及んでいたそうです。
「いつ中身が出てもおかしくない危険な状態だと。デスメ膜瘤は猫白血病が原因の場合もあるようですが、太陽は陰性。実は保護する少し前、鼻に小枝が刺さっていたことがあるんです。それが原因の可能性が高いと言われました」(中村さん)
まだワクチン接種が終わっていなかったため即入院、手術とはいかず、太陽くん自身の血液で作った点眼液を使用する「自己血清点眼」で乗り切ることになりました。
「一日20回程度、頻繁に点眼することで膜ができてくれれば、手術まで何とか持ちこたえてくれるかもしれないと。先生のその言葉を信じるしかありませんでした」(中村さん)
後日、眼科専門の獣医師がいる病院で詳しく検査すると、太陽くんの左目は光を若干感じているものの、視覚的な反応はゼロ。デスメ膜の一番奥の薄い膜も破れ、内容物が出てきている状態だと分かりました。中村さんは手術するか否かの選択を迫られます。
「手術をすれば見えるようになるかもしれないけれど、“かもしれない”というレベルで、確率何パーセントとも言えないということでした。眼球が小さくなっていて網膜剥離を起こしやすい太陽の場合、手術することでその可能性がさらに高くなることもあり、網膜剥離を起こしたら結局、眼球を摘出しなければいけないと説明を受けました」(中村さん)
腎臓の数値も悪く、手術により悪化する可能性も指摘されました。視力を取り戻せるわずかな可能性に懸けたい気持ちもありましたが、そこには大きなリスクが…。中村さんは「眼球温存を目標に点眼で治療する」道を選びました。
目薬は数種類あり、5分ずつ間隔を空けながら1時間おきに点眼しなければいけません。仕事をしている中村さん一人ではとても続けられない治療です。そこで協力してくれたのがご近所の“犬友”さんでした。中村さんは犬も飼っていたのです。
「私の活動をずっと応援してくれていた方で、鍵を預けるくらい信頼してくれていることがうれしいと言ってくれました。涙が止まりませんでしたね」(中村さん)
ご両親にも助けてもらいながら太陽くんの治療を懸命に続けた中村さん。すると1か月余りが過ぎた頃、太陽くんの左目に変化が!
「経過観察で病院へ行くと、先生が『見えてますね』って。『えー?!』ですよ(笑)。白濁していた左目がだんだんと琥珀色に透けてきていたし、顔の前で指を動かすと左目でも追っているように見えたので、『まるで見えているみたい』って話してはいたのですが、まさか本当に視力が戻るなんて。先生も驚いて、『ものすごい生命力の持ち主だ』と言ってくださいました。手術をしない選択をしたことで、視力回復の芽を私が摘んでしまったんじゃないか。もっと早く家を買っていたら…もっと早くリフォームが終わっていたら…いろいろな思いがあったんです。でも、そんな心のつかえを太陽が全部、取り除いてくれました。頑張ってくれた太陽にも、協力してくれた友人や両親にも感謝しかありません」(中村さん)
たくさんの人の愛情を受け、奇跡を起こした太陽くん。今では通院することもなくなり、中村家で他の保護猫たちと元気に暮らしています。同時期に保護された姫ちゃんと大の仲良しで、一緒に迎えてくれる里親さんを募集中!(中村さんのTwitter/@chocochocosinak)太陽くんの目には、明るい未来が見えているに違いありません。