盛岡・9歳男児運転事故 子どもが車を運転、交通事故を起こしたら…保護者に及ぶ責任は? 弁護士に聞いた 

竹内 章 竹内 章

岩手県盛岡市内で発生した交通事故で、停止中の軽乗用車に衝突した乗用車を運転していたのが「9歳の男児」だったというニュースが驚きをもって報じられました。軽乗用車の女性が軽傷を負い、男児も軽いけがと伝えられています。運転免許を持たない子どもが交通事故を起こした場合、責任を問うことはできるのでしょうか。そして子どもを監督する保護者の責任は。弁護士法人・響(東京都)の古藤由佳弁護士に聞きました。 

―免許を持たない子どもが運転した場合、罰則が伴いますか

「子ども(未成年者:20歳未満の者)が運転者だったとしても、免許を取得していない状況で運転する以上無免許運転にあたります。しかし、無免許運転の罰則は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金(道路交通法第117条の2の2第1号)という刑事罰なので、刑事未成年である14歳未満の子どもは処罰されません。一方、14歳以上の未成年者による無免許運転については、刑事罰の対象となり、家庭裁判所における少年審判を踏まえ少年刑務所や少年院に収容される可能性があります」

―違反点数や反則金はどうなるのでしょうか

「まず無免許運転の違反点数は25点で反則金はありません。盛岡のようないわゆる純無免(免許取得していない者による運転)の場合には点数や反則金は生じません。純無免許以外(免許停止中の者による停止中無免や、免許を受けたもの以外の車両の運転による免許外運転など)の場合には、無免許運転により免許取消となり、過去に免許停止処分を受けたことがない人でも、その後免許取得ができない欠格期間が2年続きます」

―運転免許を取得できる18歳直前に無免許運転をした場合、欠格期間はどのように考えられるのでしょうか。

「17歳の子どもが無免許運転した場合は純無免ということになります。この場合、無免許運転後の免許取得資格を失うことはありませんが、他の類型の無免許運転をした場合の欠格期間に相当する期間、免許を拒否されたり、保留されたりすることがあるようです」

―子どもが無免許運転した場合、車の所有者にも責任は及ぶのでしょうか

「無免許運転そのものについていえば、子どもの責任は子どもが負うだけで、子どもの親など、他の人に及ぶことはありません。ただ、車の所有者が、運転者が無免許であることを知りながら車を提供した場合や運転させた場合には、無免許運転幇助罪(道路交通法第64条2項、同3項)に該当するとして、刑事処罰の対象になります。車両提供の場合、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金,同乗の場合、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられ、無免許運転者と同様の違反点数が加算されます」

―民事では、交通事故の被害者からはどのような責任が問われるのでしょうか。

「運行供用者責任です。自動車の運用を支配し、その車を運行することにより利益を受けた者に認められる損害賠償責任のことで、例えば、盗難車を運転していた窃盗犯が事故を起こした場合には、自動車の持ち主でなくとも、この窃盗犯に損害賠償責任が認められることになります。子どもが無免許運転をして事故を起こした場合でも同様です。『自己の行為の責任を弁識するに足りる知能』(民法712条)があれば責任を負うことになり、過去の判例では、11歳11カ月の子どもに民事上の責任能力を認めたものがあります」

―運転者に責任能力が認められない場合は

「当該運転者の監督義務者(運転者である子どもの親など)が、運転者に代わって賠償責任を負うことになります(民法714条1項)。また、運転者に責任能力が認められる場合であっても、親の監督義務違反を理由として、親が運転者とともに賠償責任を負うこともあります(民法709条)」

―今回の盛岡のようなケースの判例はありますか

「9歳という低年齢の子供が1人で運転をしていて事故を起こしたという裁判例を見つけることはできませんでしたが、中学生、高校生が無免許運転をして事故を起こし、運転者自身の責任のみならず、運転者の親の監督義務違反や無免許運転幇助罪の成立を認めたものは多くあります。親が積極的に子どもの運転を容認した、という事情がなくても、車の鍵の管理が厳重でなかったり、子どもが無免許運転しているかもしれないと思いながらこれについてしっかりと指導していなかったりという事情から親の監督義務違反が認められているものがあり、子どもの運転について、親はかなり高度な監督責任を求められている印象です」

―今回の9歳男児運転から学びとすべき点を

「いうまでもありませんが、場合によっては人命が失われかねないという意味で大変危険な行為であり、自動車の所有者や子どもの親など、運転者以外の多くの人が責任を問われる可能性や、刑事上・民事上の責任の重さを考えても『子どものいたずら』で済まされるものではありません。私たちの生活の中に当たり前に存在する自動車ですが、極めて危険なものであり、他人の人生も自分の人生も変えてしまいかねないものだとあらためて認識すべき事案だと思います」

 ◇ ◇

古藤由佳(ことう・ゆか) 東京・大阪・福岡に拠点を持つ「弁護士法人・響」所属。東京弁護士会。交通事故や借金問題、労働・離婚・相続問題、消費者問題、刑事事件などを主に扱う。メディア出演多数。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース