時間も労力もかけたのに「お礼は食事で」の悲哀 学生のクリエイティブな地域貢献を「報酬制」に?ある挑戦

広畑 千春 広畑 千春

 長引くコロナ禍で飲食店等の休業や時短営業が続き、アルバイトで生計を立てていた大学生や専門学校生らの困窮が指摘されています。他方で、多くの企業や官公庁、地域団体などが大学や専門学校と連携し、デザインなどクリエイティブな学生のアイデアを実社会に生かす取り組みも広がっています。もし、この活動を一般の社会と同様に「契約」とし、相応の「成果と報酬」を求める形にできたら、より「持続可能」な活動になるのでは-。そんな挑戦を取材しました。

 中小企業・教育機関向けICT導入支援などを手がける「ディーフォーエル(D4L)」(神戸市中央区)が事務局を務める「SDGs専科」の「キャリア未来プロジェクト」。代表の則直豪さんは「学生のクリエイティブな活動を、単なるボランティア経験に終わらせず、社会の仕組みの中に位置づけられたら」と話します。

 「これまで学生が地域に関わるような活動をする際は、ボランティアやカリキュラムの一環であることが前提で、多大な労力と時間を費やしても『お礼は食事で』で終わることも少なくありませんでした。もちろん、ハード・ソフト両面において、学生だけでは出来ないような本格的な活動に取り組め、人脈や経験作りに繋がる側面もあります。ただ、それも学生が他で生計を立てられているからできること。もし将来、今のコロナ禍のような事態になっても、自分のスキルを生かして地域に貢献し、収入も得られれば、より多くの学生が自分の可能性にチャレンジできるのでは」

 プロジェクトでは、趣旨に賛同した企業や地域団体、自治体などからビジュアルデザインや漫画、イラストなどの案件を事務局が受注し、パートナー登録する学校法人や学生に発注。学生はデザインなどを成果物として納め、依頼主は事務局を通じ、学生に一般契約に準ずる報酬を支払います。また売り上げの一部は、絵本を通じて子どもたちに命の大切さなどを伝える道徳教育活動に寄付するといいます。

 一番の課題は「報酬を支払うに足りる水準の成果が上げられるか」。プロジェクトでは、通常の企業と同等のやりとりを事務局と学生とで行うことで、学生は実社会と同等のレベルの経験を積み、企業側もリスクを最低限で抑えられる-という仕組みです。さらに企業にとっては、地域ブランディングやインターン・採用など「自社の強み」づくりにつなげられる-というメリットも。

 3月にはスタートアッププロジェクトとして、神戸芸工大の学生2人に「キャリア未来プロジェクト」のイメージデザインを依頼。「最初のデザイン案も悪くはなかったが、シャープさやオリジナリティーの部分で、『どこかで見た感』もあった。よりオリジナリティーがあり、かつシンプルに、印象に残るものにできないか。そしてプロジェクトのイメージカラーやシンボルである『虹色の翼』とも共通するデザインにしてほしかった」と則直さん。学生らはオファーに応じてプレゼンを繰り返し、イメージを膨らませながら1カ月弱で完成。最初の案とは全く違ったものになりました。

 参加した学生たちも「これまで地域の団体のプロジェクトなどに参加したこともあったけれど、お金をもらうとなると緊張感が違う。すごく勉強になりました」。則直さんは「この成果は就活などで実績として使うこともできるし、件数をこなせばバイト以外の収入源にもなる。『やりがい』や『経験値』にとどまらないキャリア形成の形を示せたら」と先を見据えます。

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▽SDGs専科
https://sdgs-senka.jp/

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