突然死した親友が飼っていた愛猫を引き取り しかし別離の傷は思いのほか深くて―心の氷が溶けるまでの2年間

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

働き盛りの30代男性の突然死。それは人間の家族だけでなく、猫にも大きな影響を与えます。神奈川県の7歳のミャオちゃんも飼い主さんが突然死した猫です。今から2年前のことでした。

元の飼い主さんと暮らしていたころのミャオちゃんは、とても愛想の良い猫。飼い主さんのお友達が遊びに来たら、「こんにちは」と必ずご挨拶してくれます。

朝、飼い主さんを起こすのは、ミャオちゃんの役目だったのだそう。飼い主さんはいつも、「ミャオ、有難う」と言ってくれていました。2人の信頼関係が築けているのは、はたから見てもよく分かったようです。

それが突然の別れ。残されたミャオちゃんは、何もできません。このまま新しい飼い主が見つからなければ、保健所に送られることも……。

そんな時、元の飼い主さんの親友のYさんが手をあげました。親友の忘れ形見、一人娘と一緒に暮らしたいと。元の飼い主さんの遺族の承諾を得、ミャオちゃんを引き取ることになりました。

さあ、引き取ると言ったものの夫婦二人と先住猫1匹で1Kの狭い部屋です。ここにもう1匹猫は厳しい広さ。それならばと、Yさん夫妻はミャオちゃんのために引っ越すことを決意。2DKのマンションです。ここなら1匹増えても大丈夫です。

Y家に迎えられたミャオちゃんは、すんなり皆と仲良しというわけにはいきませんでした。ミャオちゃんは、押し入れの中に入ったまま出てきません。まだ引越したばかりで何も入っていない押し入れは、ミャオちゃん専用部屋のよう。ご飯も食べられませんでした。

いつもなら元の飼い主さんがいてくれました。寂しい時は寄り添って、楽しい時も一緒。ミャオちゃんが見上げると、優しく撫でてくれたその人はもういません。突然、ミャオちゃんはひとりぼっちになってしまったのです。ミャオちゃんはどうして良いのか分からなかったのでしょう。

その様子をYさん夫妻は見守ることしか出来ません。押し入れをのぞいても、「うーうー」とミャオちゃんは唸るばかり。猫がこれほどまでに唸る姿を、Y夫妻は見たことがありませんでした。先住猫との相性も良いとはいえず、ミャオちゃんの興奮状態はしばらく続きます。

とはいえ、生きているとお腹が減ります。Y家に迎えられて3日目の夜、ようやくミャオちゃんは押し入れの中から出てきました。カリカリを少し口にすると再び押し入れの中へ。

しかし、このご飯からミャオちゃんは少し変わりました。ちょっとだけ新しい家を探検してみよう。ちょっとだけ、新しい家族を見てみよう。少しずつ少しずつですが、元の飼い主さんのいない世界を受け入れ始めたのです。

それでも、記憶を引き戻される鍵が家の中にあります。それは男性の汗の匂いのついたもの。Tシャツや靴です。Yさんが仕事から帰ってきて脱ぐと、その匂いをかいでゴロンゴロン。まるでまたたびを嗅いでいるかのよう。とても嬉しそうなのです。

「僕と彼は見た目は似ていないですけど、匂いは似ているのかも」

Yさんは笑いながらそう言います。ミャオちゃんが飽きるまで、Tシャツや靴を与えます。ちょっと恥ずかしいみたいですが。

あれから2年経ち、今ミャオちゃんは、少し触らせてくれるようになったとか。撫でて欲しい時は、Yさん夫妻の手に自分の頭をゴッチンさせるんですって。ベタベタに甘えないことが、彼女の元の飼い主さんへの想いなのかもしれません。

2年経っても忘れられない。ただ、元の飼い主さんがいないことには慣れてきているようです。一緒に暮らす他の猫とも、時々毛づくろいしあうことも。なんだかんだいってミャオちゃんは幸せです。

この様子をきっと、元の飼い主さんは天国から見てくれているでしょう。いつもの調子で「ミャオ、良かったなぁ」と言いながら。

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