五輪の開催権は返上できる、巨額の賠償金を請求される可能性は高くない<後編>

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

どうやって開催するつもりなの?

現時点においては、「無観客か、収容人数の50%などの制限を設けた上」で、「来られる国・地域の来られる選手だけ(※)」でも「開催する」という方向で検討していると思います。(中止など、他の選択肢を全く考えていないという意味ではありません。)

(※)五輪・パラリンピックの参加国や参加人数が大幅に減少して開催されるというのは、過去にも例があります。例えば、国連加盟国が約150か国の時代に、1976年モントリオール五輪(参加国・地域が92)では、アフリカの22ヵ国が、ニュージーランドのラグビーチームが人種差別政策を続けていた南アフリカへ遠征したことを巡り、IOCがNZの参加を禁止しなかったことを受けて、参加しませんでした。中華人民共和国は、当時の中華民国政府の統治する台湾からの選手出場を理由にボイコットしました。1980年のモスクワ五輪(参加国・地域が81)では、1979年の旧ソ連によるアフガニスタン侵攻もあり、アメリカ、日本、西ドイツや韓国、ソ連と対立関係にあった中華人民共和国、イラン、サウジアラビア、パキスタン、エジプト、イスラム教諸国、反共的立場の強い諸国などが不参加でした。

東京五輪を開催すべき、という方の中には、『日本の感染者は、世界の中ではかなり少ない』、『五輪で来日するのは、ワクチンを接種し、体力のある人も多く、重症化もしないはず。だから、国内の医療に負荷がかかるということはない』という主張があります。

しかし、懸念は「選手等が感染することによって、日本の国内医療に負荷がかかるかどうか」に留まりません。選手1.5万人と関係者9万人が、一挙に東京を訪れます。検査をしても必ず偽陰性がありますので、感染力が増しているインドなどの変異株が持ち込まれる可能性もあります(実際に5月17日、栃木県で、空港検疫で全員陰性だったネパールからの入国者(6人)の一部の方が、入国後発症し、検査をしたところ全員が陽性、3人がインド変異株だったというケースが発表されました)。

選手等は外に出さないといっても、国内のスタッフやボランティアなど、大量に動員された(そして多くはワクチン未接種と思われる)方々を経由するなどして、国内に広まり、高リスク者に感染し重症化させてしまうおそれがあります。(だからこそ国は、7月末までになんとしても高齢者のワクチン接種を終了させたいのだと思います。)

元々は、多くの国民に歓迎されていた東京五輪・パラリンピックです。選手や関係者の方々のこれまでの血の滲むような努力も、もちろん分かります。

しかし、新型コロナウイルスが世界を襲い、今に至るまで、自粛、休業、時短、失業、倒産等々・・・様々な我慢を強いられ、痛みや苦しみを負う国民感情からすれば、そうした中で「世界的なスポーツの祭典」を行えるというのは、一体どういう理屈なのか。

運動会のできない子どもたちに、じっと家に籠りワクチン接種を待ち望んでいる高齢者の方々に、職を失い生活に困窮し、あるいは、ご家族を亡くし、悲嘆に暮れる方々に、どうか納得できるよう、説明していただきたい、ということなのだと、思います。

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