バイオバンクという言葉をご存じでしょうか。
骨髄バンクやアイバンクなど、医療のために生体の組織の一部を採取・利用するシステムは以前からありますが、それらのバンクとバイオバンクにはどのような違いがあるのでしょうか。
そもそもバイオバンクってなに?
バイオバンクは近年の医療発展のために設立された機関とそのシステムのことを指します。
患者の血液、手術や検査などで摘出・採取した組織や細胞の一部などを、患者の同意のうえで生体試料として保存する仕組みです。
採取した生体試料は、次世代の検査や治療、予防法の研究や開発に活用されます。
従来から存在するバンクと、バイオバンクの大きな違いとは何でしょうか。
従来のバンクは骨髄や角膜など、特定の組織を採取し個人の治療に充てるのが目的です。
一方で、バイオバンクは対象とする組織が多様であり、その目的も個人への治療のためではなく、もっと包括的な医療発展のために使われます。
どうしてバイオバンクが必要なの?
医学や生物学の研究には、生体を用いることが必要不可欠です。
そのため、ヒト以外の動植物や細菌などの細胞や組織、個体を用いることもあります。
しかし、ほかの生物とヒトでは生体のしくみなどに違いがあり、ほかの生物で示されたことがヒトには当てはまらないことがあるなどの問題もあります。
そのため、臨床実験などで実際にヒトを対象にする必要もあります。しかし、ヒトを被験者にした実験は、倫理的な観点での問題が残ります。
しかしながら、近年は、ゲノム解析など医学・生物学の進歩は日進月歩であり、オーダーメイド医療など医療の在り方も多様化、複雑化しています。
そのため、そのような医学の進歩を支えるために、ヒトを対象にした研究・開発を行ううえでのより体系的な仕組みを作ることが必要になりました。
それを支える一端を担うのがバイオバンクといえます。
バイオバンクの課題とは?
このように、社会に非常に有益なバイオバンクですが問題点もあります。
それは、情報化社会となりゲノムや遺伝子も個人情報として扱われる現代において、個人のプライバシーなどの権利が守れるのか、という問題です。
以前は現代ほど、このような個人情報の管理はシビアではありませんでした。
例えば、「HeLa(ヒーラ)細胞」という細胞は、1951年に子宮頸がんで亡くなったアメリカ人女性のがん細胞を採取したもので、今までに多くの医学・生物学研究に用いられ、その貢献度は計りしれません。
しかしながら、その細胞の採取や、世界中の研究者に利用されているという事実は、患者本人はおろかその家族も20年以上知らなかったそうです。
それは、当時のアメリカの「組織や細胞は摘出されれば、その人のものではなくなる」という考え方に基づくものでした。
しかし、近年の目まぐるしい医学の発展やゲノム情報の解析や開示がおこなわれるようになった経緯もあり、生体の組織や遺伝情報に対してもプライバシーなどの倫理的な配慮が必要不可欠になってきました。
バイオバンクにも同様の課題があるのは明白です。
バイオバンクで採取・保存された生体試料は、ひとつの機関や研究内容にとどまらず、さまざまな調査や解析に用いられる可能性があります。
組織の提供者がそれらのすべてを知り、許諾することは実質的に困難です。その点で、インフォームドコンセント(知る権利)の遵守に対する疑念が残ります。
そのほかにも、紙媒体、電子媒体の情報が盗まれるなどし、提供者の住所・氏名などの個人情報が流出してしまう可能性もあります。このような、問題点に対処できるシステムを構築することが重要です。
すでに動き出しているバイオバンクのシステム
このように、医療発展に大きな貢献が期待されながらも、倫理的な課題も残るバイオバンクですが、今では日本でも全国の医療機関・研究機関で採用されています。
もちろん、上記のような倫理的な問題点についても、配慮しています。
協力者にバイオバンクについて事前に理解・同意していただくことはもちろん、情報を厳重に保護し、情報を暗号化し万一漏洩しても特定されないようにしているなど、プライバシーの保護を最優先しています。
次世代の医療発展を担う重要な仕組みであるバイオバンク。ぜひ、協力してみてはいかがでしょうか。
■国立循環器センター バイオバンク http://www.ncvc.go.jp/biobank/
■バイオバンク・ジャパン https://biobankjp.org/index.html
■ゲノム医療研究支援 バイオバンク情報一覧https://www.amed.go.jp/site/biobank/itiran_index.html