左目がふさがった猫「さみしいと言ってるみたい」TikTokで「訳猫譲渡会」を知った小学生姉妹が、家族にお迎え

岡部 充代 岡部 充代

 2020年12月、兵庫県西宮市内のビルの一室で『訳猫(わけねこ)の譲渡会』(主催:つかねこ動物愛護環境福祉事業部、NPO法人動物愛護・福祉協会60家)が開催されました。“訳猫”とは文字通り、ちょっと訳がある猫たちのこと。生まれつき、または事故などで身体に障害があったり、何らかの事情で心に深い傷を負っていたり…幸運にも命は助かったけれど、新しい家族を見つけるには少し高めのハードルがある猫たちが参加する譲渡会です。

 ルナちゃんもそんな“訳猫”でした。2020年10月に4きょうだいで保護されたのですが、みんな猫風邪を引いていて、他の子は飲み薬や点眼で回復したものの、ルナちゃんだけ左目がうまく開かなくなってしまったのです。獣医師の診断は瞬膜の癒着。もう少し成長したら切開手術ができると言われましたが、保護した『つかねこ』の安部実紀さんは、「里親さんに繋いであげるのは難しいかも」と思っていたそうです。他のきょうだいが順調に巣立って行く中、ルナちゃんだけが残っていたからでしょう。

 そんなとき『訳猫の譲渡会』の企画が持ち上がり、実現することに。安部さんはルナちゃんの参加を決め、ルナちゃんをモデルに事前告知の動画をTikTokで配信しました。すると…。

 一人の女性から問い合わせがありました。「小学生を連れて行ってもいいですか?」。譲渡会の入場に年齢制限はなかったので、安部さんはすぐにOKの返信をしましたが、その女性がわざわざ確認したのには理由がありました。TikTokでルナちゃんに目を留めたのが小学生の娘さん2人だったからです。「下の子の一目惚れだったと思います」とお母さん。家にはゆずちゃんという7歳になる猫がいるのですが、もともと複数で飼っていたこともあり、「1匹ではかわいそう」と娘さんたち。そこでもう1匹迎えようとインターネットで里親募集中の猫を探していたのです。ペットショップでは買わないというのが3人の一致した意見でした。

「ペットショップで売られている猫たちにはいずれ飼い主さんが見つかるからって、娘たちは言っていました。保護猫や保護犬を取り上げているテレビ番組を見て、『この子たちはなんでテレビに出るの?』と聞かれたので、説明したんです。そうしたら『私たちにできることはないの?』って。それ以来、スーパーなどに置いてある募金箱を気にするようになって、自分のおこづかいを入れていました。『シェルターに行ってみたい』とも言うようになりましたね」(お母さん)

 小学1年生と4年生。幼いながらも「命の大切さ」をちゃんと分かっていたのです。

 ただ、保護猫の中でも“訳あり”なルナちゃんを選んだことに、お母さんは少し驚きました。「次の日には普通の猫ちゃんの譲渡会もしているみたいよ」。そう言うお母さんに対して、「普通の子はもらわれやすいでしょ」と姉妹。気持ちは揺らぎませんでした。特に下の娘さんは、譲渡会の会場でルナちゃんの前から動かなかったと言います。そのときの気持ちを尋ねると、「かわいかったし、さみしいと言ってるみたいだった」。その言葉を聞いた安部さんは、「他のきょうだいたちが(譲渡で)いなくなって、ルナはさみしかったかもしれない。その気持ちを娘さんが受け取ってくれたんだと思います」と感激していました。そんな小学生姉妹の気持ちに応えるように、ルナちゃんも懸命にアピール。そして、母子3人はアンケート用紙の希望欄にルナちゃんの名前を記入したのです。

 トライアルに入る前、ルナちゃんは避妊手術と同時に左眼の切開手術を受けました。無事に成功し、今では“訳猫”だったことを忘れるくらいきれいなお顔をしています。家族に迎えてくれたお姉ちゃんたちのことも、よく見えていることでしょう。

「娘たちはルナの目のことをとても気に掛けていて、『今日は涙が多い。どうしたらいい?』とか聞いてきます。ルナのことが心配で毎日、学校から真っすぐ帰ってきていましたし、ルナを迎えたことでいろいろなことを考えて、少しずつ成長してくれていると思います」(お母さん)

 学校では学べないことを、ルナちゃんが教えてくれているのです。

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