名古屋市西区にある、2階建てバスの保護猫カフェ「ひだまり号」。2018年8月のオープンから2年半ほどにわたり、約180匹の保護猫を里親に送り出してきました。しかし、新型コロナウィルス流行のあおりを受け、お客さんが激減。毎月の売り上げは10分の1ほどに落ち込み、苦しい状況が続いているといいます。
ひだまり号は、市の動物愛護センターから引き取った猫を中心に行き場をなくした猫たちの命をつなぐ“場所”。運営している祖父江昌子さんは「私の気持ちとしては、これまで通り、行き場をなくした猫たちの命を守っていきたいと願っていますが…いつまで続けていけるか不安です。バス内は換気システムも整えており、感染対策に取り組んでおります。猫が好きな方に少しでも足を運んでいただけたら」と訴えます。
動物愛護センターから引き取った猫たちがいる保護猫カフェ
祖父江さん夫婦が2階建てバスを改装して開店したという保護猫カフェ「ひだまり号」。市の動物愛護センターから譲り受けた猫をはじめ、一般の人から引き取った猫などがいます。バスの1階に受付やトイレ、ドリンクバーなどがあり、2階が猫と触れ合える部屋です。祖父江さん夫妻が赤ちゃんのころから育てている猫がほとんどで自ら寄ってくる人懐っこい猫ばかり。お客さんにお腹を見せたり、膝にのって寝てしまう猫もいるとか。
保護猫カフェ内の定員は通常12名のところを、コロナ禍となった昨年4月からは6、7名と半数近くに限定。また、緊急事態宣言が出ているときは、完全予約制の貸し切りにして、お客さん同士が一緒にならないように配慮しているといいます。
コロナで毎月赤字状態…先行き見えない不安
そんな「ひだまり号」も、昨年から続くコロナの影響を受け、運営の危機に直面。毎月の売り上げは60万円ほどの支払いに対して20万円も満たず、毎月が赤字状態…これまでは借り入れや支援金などでまかなってきたという昌子さんは「国からの補助もあっという間に底をつきました」と、悲痛な胸の内を明かします。
先行きが見えない不安な気持ちを抱きつつも、春は猫の繁殖シーズン。地域猫の避妊・去勢手術を施すなどTNR活動をしながら、動物愛護センターから引き取る赤ちゃん猫などを受け入れる準備に大忙し。悩んでいる暇もなく、小さな命をつなごうと必死に毎日を過ごしています。
7年ほど前に息子さんが急死…オーナー夫婦の壮絶な過去
祖父江さん夫婦がこうして頑張れるのも、7年ほど前に若くして急死した息子さんへの強い思いがあるから。昌子さんは壮絶な過去をこう語ってくれました。
「2013年12月26日、愛する息子修平が23歳で突然亡くなりました。フラッシュバックで、倒れている姿、仕事場から家に向かうと家の前に救急車が停まってる映像が頭の中を駆け巡り。そのたび、パニック発作に。泣き叫び、大声で息子を呼びました。予期しない出来事に私は心が壊れてしまい…PTSDによるうつ病になって、家から出られなくなりました。そんな日々が4年ほど続いたんです」。
息子さんの“死”に直面し、人生の“真っ暗なトンネル”に入り込んでしまった昌子さん。そこから救い出してくれたのが、1匹の赤ちゃん猫との出会いでした。
「ある日、飼い猫のかかりつけである名西どうぶつ病院の獣医さんから『赤ちゃん猫を育てないか?』と言われ、預かり育てることになったんです。その子は、私の匂いでミーミーと泣きミルクを欲しがりました。私がいないと生きていけない、私は必要とされている…一生懸命お世話することができました」。
もともと動物看護師として働いていた時期もあったという昌子さん。赤ちゃん猫を育てることに生きがいを感じたそうです。無事に里親さんに引き渡すことができたときに、新たな目標が見つかりました。それは、動物愛護センターのミルクボランティア。そこで、何十匹もの赤ちゃん猫にミルクを与えて育てることになりました。
やがてボランティアとしての活動が1年過ぎたころ、昌子さんは「里親さんに自分から猫を譲渡したい」と思うように。身寄りのない猫たちを引き取って保護猫カフェを始めることを決意しました。
2階建てバスを改装、2018年8月に保護猫カフェをオープン
そのころ、昌子さんから保護猫カフェについて相談を受けていた夫吉修さん。当時、軽トラの運転手をしていた際に、2階建てバスとすれ違ったときのこと。「あ!あのバス、うちの駐車場に置けないかな?」…そんなことをひらめいたそうです。
中古バス販売店を探し、2018年1月、自宅の駐車場にピッタリ収まるサイズの「2階建てバス」を発見。数カ月後には購入し、祖父江さん夫婦は友人に手伝ってもらいながらバスを改装、その年の8月1日に保護猫カフェ「ひだまり号」をオープンしました。
「ひだまり号」と名付けたことに、昌子さんは「猫が大好きだった息子。生前、水那月詩音という名義で音楽活動をしていました。当時、息子の個人サークル名が『sunny spot』。日本語にすると『ひだまり』という意味なんです。主人が息子の遺志を継いで、カフェに『ひだまり』と名付けようと提案してくれました。だからこそ、『ひだまり号』は私と主人、バスのラッピングイラストなどを描いた娘そして息子の4人で運営しているのと一緒です」。
息子さんの遺志を継いだ「ひだまり号」…自宅にICU完備のシェルターも開設
オープンの翌年6月には「ひだまり号別館」として亡くなった息子さんや吉修さんの部屋を改修して、赤ちゃん猫や病気の猫たちが安心して過ごせるよう専用のシェルターを開設しました。改修費などはクラウドファンディングで募ったそうです。
シェルターは現在、息子さんの部屋を2つに仕切って1部屋に妊娠している猫、もう1部屋には赤ちゃん猫2匹がいます。さらに、吉修さんの部屋も3つに区切り、1部屋はICUが置いてあり、ほか2部屋はFIP(猫伝染性腹膜炎)の治療中の猫部屋となっているといいます。
ICUは、動物病院にあるものと同じ最新型。上下2つに分かれ、温度や湿度、酸素量などが管理できるとのこと。体温管理ができない赤ちゃん猫を低体温にさせないために使ったり、呼吸が苦しい猫を入れたりしているそうです。このように治療に専念できるような環境を整えたのも、猫コロナウィルスが原因となり、腹膜に炎症が起こるという難病のFIPにかかった猫たちを治療したいと思ったから。
難病のFIP治療に取り組む 病を克服した保護猫12匹
昌子さんは「オープンしたころはFIPの治療はできませんでした。死亡率も高く、何匹もの猫をFIPで亡くしました。『ひかり』という白猫もかかり命を落とした子です。3カ月半闘病しましたが、だんだん呼吸も苦しくなり酸素を吸わせるなど寝たきりになって…苦しみ亡くなったんです。あの姿を私は一生忘れられません。そして、ひかりが亡くなってまもなく海外での薬による治療が可能になりました。ちょうど1年半ほど前です。
ただ、FIPの治療薬は当時約70万円~200万円ほどかかる高額なもの。保護猫カフェでたくさんの猫の世話をする中、そんなお金のかかる治療をするのは無謀だと、周りからも反対されましたが…でも、息子を亡くし、ひかりのように苦しむ猫の姿も見たくないと思った私にとって、もう誰も失いたくない。助ける方法があるなら、それに賭けたいと治療に踏み切ったんです。
治療薬は日本では未承認なので、個人輸入をして、バンコク在住でフランス人の獣医さんに相談しながら処方してもらい、投与しています。今は、以前使っていたものより安く3分の1ほどで治療できる薬を知って使っています」。
現在、祖父江さん夫婦のところでFIPにかかった猫は全て寛解、預かっているFIPの猫が1匹治療中とのこと。これまでFIPを克服した保護猫は12匹だそうです。
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「ひだまり号」初の「絵本」と「CD」を5月発売予定
バスとシェルターには合わせて30匹ほどの猫が暮らしています。今は祖父江さん夫妻のところにいつ赤ちゃん猫がやってきてもいいように、シェルターの1部屋を赤ちゃん猫のために空け、ケージにホットカーペットや毛布、ペットシートなどを敷いて、準備をしているといいます。また、コロナの終息を願いながら、娘さんが描く「ひだまり号」初の「絵本」や「CD」を制作中。5月発売を目指しているそうです。
保護猫カフェ「ひだまり号」では、保護猫たちの里親さんを募集しています。実際に「ひだまり号」にご来店いただき、猫に触れ合って決めていただきたいとのこと。お電話にてお問い合わせください。
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▽保護猫カフェ「ひだまり号」
〒451-0015 愛知県名古屋市西区香呑町(こうのみちょう)3-74
TEL 052-522-6295
▽HP 保護猫カフェ「ひだまり号」
https://hidamari-cat.com/
▽Twitter 「保護猫カフェひだまり号(公式)」(@hidamarigou)
https://twitter.com/hidamarigou