米のワクチン接種事情、エッセンシャルワーカーよりなぜ受刑者が先? 受刑者「私の分を70歳の父に…」

今井 悠乃 今井 悠乃

 私が住む米国ロサンゼルスでは連日、新型コロナウイルスのワクチンに関する情報を次々と耳にします。

「全米の高校生は、秋学期までに新型コロナワクチンを接種できる見通し」
「春にはカリフォルニア州の全住民がワクチンにアクセスできるはず」

 現在ロサンゼルスでは、65歳以上の高齢者や医療従事者に加え、一部のエッセンシャルワーカーのワクチン接種も始まった段階。日本よりかなり進んでいますが、健康な若者たちは、いつ自分のティア(順番)が来るのか、辛抱強く待つしかない状況が続いています。私もその中の1人です。

 一方、全米の刑務所では、エッセンシャルワーカーや一般市民よりも、服役中の受刑者のワクチン接種が優先されていることも話題になっています。なぜ、そんなチグハグなことが起こるのかというと、アメリカの刑務所の多くは定員オーバー。“密”が避けられない刑務所内では新型コロナの感染が拡大を憂慮し、過密状態を避けるために、高齢者や軽犯罪を犯した一部の受刑者が釈放されたケースもありました。

 「犯した罪を償うために服役しているんだ。密閉された場所から出られずにコロナにかかって殺されるためじゃない」と訴える受刑者がいる一方「パンデミック中に命がけで働いているエッセンシャルワーカーたちより、犯罪者のワクチン接種が優先されるのは間違っている」と語る一般の納税者もいます。

 どちらの意見も一理あると思いますが、実際の「塀の中」はどうなっているのでしょうか。そこで、ある受刑者の体験談をシェアしようと思います。私が現在、執筆中の刑務所ストーリー集の取材で、マサチューセッツ州の刑務所に服役中の受刑者、カルバンさんと知り合ったのが昨年10月。それ以来、月に数回連絡を取り合っています。

 カルバンさんによると、秋ごろからロックダウンが始まり、独房から出られない日が何ヵ月も続いたと言います。もちろん、外での運動、売店や刑務作業へ行くのも禁止。面会は言うまでもなく、同じ施設内の受刑者との交流も一切できません。

 「パンデミックの際には、体調が悪いと懲罰房に放り込まれてしまう。だから病気でも黙っている受刑者は少なくはありません」

 日ごろから体調管理には気をつけていると語るカルバンさんが、ロックダウン中に最も困っていたのが飲料水です。通常、食堂やウォーターサーバーから飲料水が供給されますが、ロックダウンの際には自由に水を取りに行くことも許されません。売店で買いだめしていない限り、室内の手洗い場の水を飲むしかないのです。

 カルバンさんは1月末に、1回目のワクチン接種(モデルナ社製)を受けました。その際には「外ではワクチンの流通が滞っているとニュースで見ました。70歳の父親はまだワクチンを受けていません。私の分をあげたいくらいです」と語っていました。

 ワクチン後の数日間は注射部位の激しい痛み、頭痛、悪寒、倦怠感、関節痛や立ちくらみなどの症状が続いたそうです。その1カ月後に2回目のワクチン接種。その直後は「倦怠感から爆睡してしまった」そうですが、数日後には体調がスッキリ改善したようでした。

 実際、ここ半年間、取材してきた他州の受刑者たちの中には、新型コロナに感染してしまった方も多くいました。今まで感染せずに、無事ワクチンを接種できたカルバンさんは運がよかったのだと思います。

 パートナーの親戚で、カリフォルニア州オレンジカウンティ在住の70代の女性は2月末、ワクチン接種の大規模拠点に変身したアナハイムのディズニーランドでワクチンを受けました。カルバンさんと比べると副反応はなかったようで、注射部位が少し痛む程度だったそうです。

 ロサンゼルスでは近日中にも製薬・医療機器の大手「ジョンソン・エンド・ジョンソン」が開発し、接種が1回で済むワクチンの普及が開始される予定です。あぁ、いつになったら私の順番になるのでしょうか。

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