サンマが高いのは今年だけ? 豊田真由子が日本と世界「漁業の現状と未来」を考察

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

今年はサンマが不漁で高騰していると言われます。たしかに、スーパーの魚売り場をのぞいて、「あ、サンマだ!」と思って見ると、お値段の割に、身がほっそりとしています。水産物や農産物等は、基本的には需要と供給のバランスで、不漁・不作のときは値段が高騰するわけですが、では、今年のサンマ不漁の原因は何か?果たして、これはサンマだけ、そして、今年だけのことなのでしょうか?~今回は、各種のデータを基に、日本と世界の漁業の現状と未来、そして、わたしたちの生活を、ちょっと掘り下げて考えてみたいと思います。

ここ15年間の日本の漁獲量と単価の推移を見てみましょう。

水産物の価格は、資源の変動や気象状況等による各魚種の状況や、海外の漁業生産状況、国内外の需要の動向など、様々な要因の影響を複合的に受けて変動します。2017年の主要産地の平均価格は、近年資源量の増加により漁獲量が増加したマイワシの価格が低水準となる一方で、漁獲量が減少したサンマやスルメイカは高値となっています。

サンマに関していえば、かつて北太平洋でサンマを取っていたのは大半が日本でしたが、2000年代初頭から台湾、次いで中国が進出してきました。逆に、最盛期に50万トンを超えていた日本の漁獲量は、2017年に8.4万トンと、過去半世紀で最低となりました。近海での日帰り操業が主流の日本に対し、台湾や中国は、冷凍設備のある大型船で公海まで出向き、大量捕獲する手法を採っています。

日本の漁業は、どのように変わってきているのでしょう。

日本の漁業は、第2次世界大戦後、沿岸から沖合へ、沖合から遠洋へと漁場を拡大することで発展してきました。しかし、昭和50年代に、沿岸から200海里(約370km)の水域で外国船は勝手に入って漁をしてはいけない、というルール設定を世界各国が次々と行い、遠洋漁業が難しくなってきました。その結果、遠洋漁業の漁業生産量は、4割から1割ほどになりました。

遠洋漁業の生産量が減った分、沿岸漁業の割合が2割から3割へと増えましたが、沿岸の開発による水産生物の減少や、サケやマスの回帰率の低下など、環境の変化によってその生産量自体は減ってきています。

一方、沖合漁業の生産量は、総じて、漁船漁業全体の6割を占めています。沖合漁業で獲る主な魚はイワシ、アジ、サバ、サンマなどで、これらは一度に大量に漁獲できるため、「多獲性浮魚類(たかくせいうきうおるい)」と呼ばれます。これらの魚は海水の温度など、環境の変化の影響を大きく受けやすいため、漁獲量は時々で大きく変わります。

では、世界の状況はどうでしょうか。

世界の漁業・養殖業生産量の推移を見てみます。

世界の漁業・養殖業を合わせた生産量は増加し続けています。漁船漁業生産量は、1980年代後半以降は横ばい傾向となっている一方、養殖業生産量は急激に伸びています。

世界の水産物の生産量(天然+養殖)は、1988年に1億トンを超え、2016年には2億トンに達しました。、一方で、1988年の日本の漁業生産量は約1,200万トンで、その後は大幅に減少、2016年には約400万トンと、ピーク時の3分の1に減少しています。世界の水産物生産量は順調に増加しているのに、日本は大きく減少しているのです。

世界の漁業生産量を、主要漁業国・地域、魚種別に見てみます。

漁船漁業生産量は、過去30年ほどの間、日本は減少、EU、米国等の先進国・地域は、おおむね横ばいで推移してきているのに対し、中国、インドネシア、ベトナムといった、アジアの新興国をはじめとする開発途上国による漁獲量の増大が続いています。2016年で、中国は1,781万トンと、世界の19%を占めています。

魚種別に見ると、ニシン・イワシ類が1,554万トンと最も多く、全体の28%を占めていますが、多獲性浮魚類は、環境変動により資源水準も大幅な変動を繰り返します。タラ類は1980年代後半以降から減少傾向が続いていましたが、2000年代後半以降から増加傾向に転じ、マグロ・カツオ・カジキ類、イカ・タコ類及びエビ類は、長期的にみると増加傾向です。

下記を見ると、以前はあまり魚介を消費していなかった国・地域が、大幅に消費を増やしていることが分かります。

日本では魚介類の消費量は減少傾向にありますが、日本以外の世界では逆に増加の傾向にあります。FAO(国連食糧農業機関)によると、1人当たりの世界の食用魚介類の消費量は2017年までの過去半世紀で、約2倍となっています。

その理由には、輸送技術の発達や都市人口の増加、健康志向の高まりなどが挙げられ、特に経済の発展が進む新興国や開発途上国では、いも類などの伝統的な主食から、たんぱく質を多く含む肉類や魚類などの食生活への移行が顕著に見られます。

日本の一人当たり魚介類購入量は減っています。

 

日本の漁業従事者の数も減っています。

日本の漁業就業者数は一貫して減少傾向にあり、総数が減少しています。新規漁業就業者数は、2009年以降おおむね横ばいで推移しており、年齢別には39歳以下が7割を占めています。

近年、生活や仕事に対する価値観の多様化により、漁家の子弟が必ずしも漁業に就業するとは限らなくなり、一方、就業先として漁業に関心を持つ都市出身者も少なくありません。こうした潜在的な就業希望者を後継者不足に悩む漁業経営体や地域とつなぎ、意欲のある漁業者を確保し担い手として育成していくことは、水産物の安定供給、漁業・漁村の持つ多面的機能の発揮や地域の活性化の観点からも重要とされています。

現在、世界で「適正に」漁獲されている水産資源の割合は、どれくらいでしょう

持続可能なレベルで漁獲されている資源の割合は漸減傾向にあります。1974年には90%の水産資源が適正レベル又はそれ以下のレベルで利用されていましたが、2013年にはその割合は69%まで下がってきています。これにより、過剰に漁獲されている資源の割合は、10%から31%まで増加しています。世界の資源のうち、適正レベルの上限まで漁獲されている資源は58%、適正レベルまで漁獲されておらず、生産量を増大させる余地のある資源は11%に留まっています。

長くなりましたが、上記が、漁業を巡る日本と世界の現状です。では一体私たちは、今後どうすればよいのでしょうか?日本の漁獲量が減少している要因は、複数指摘されています。

・温暖化や海流の動きなどの地球環境の変化
・魚の獲りすぎ
・消費量や漁業従事者の減少
・近隣国の漁船が、日本に回遊して来る前に魚を獲ってしまう
 等

複合的な要因によると思いますが、こうしたことの解決は、いずれにしても、日本だけでなく、世界全体で「持続可能な漁業」を考えることが必要になります。そのため世界では、近年様々な動きがあります。

国際的な漁獲量設定や保護の仕組み

北太平洋地域での乱獲を防ぐ国際ルールを作るため、2015年に北太平洋漁業委員会(NPFC)が発足しました。沿岸漁業が中心の日本とロシア、遠洋漁業の中国、台湾、韓国、バヌアツ、そして、水産資源の保護に関心を持つ米国、カナダが参加しています。2019年7月のNPFC年次会合で、不漁が続くサンマの乱獲に歯止めをかけるため、2020年に北太平洋全体で、上記加盟8カ国・地域に、約55万トンの漁獲枠を導入することで合意がなされました。このうち、公海が33万トン、日本が主な漁場とする排他的経済水域(EEZ)は、約22万トン。国・地域別の上限は2020年の会合で協議することになりました。(※ただし、本年の会合は、コロナで延期)

サンマ漁に対する国際的な規制導入はこれが初めてで、実は画期的なことです。ただ、北太平洋全体の枠は、2018年の実際の漁獲実績(約44万トン)を大きく上回る数量となっており、漁獲枠の設定で、低迷するサンマの資源回復につながるかは未知数といわれています。

国際的にみて持続可能な漁業としての認証取得が進んでいる米国アラスカでは、魚種ごとにばらつきはあるものの、漁獲量は一時的な減少があっても再び増加して回復するというサイクルを繰り返しているそうです。アラスカでは、持続可能な漁業に関する国際的な水産エコラベル認証である「MSC認証」を取得している漁業で獲られた水産物の割合が、漁獲量全体の8割を超えています。MSC(Marine Stewardship Council・海洋管理協議会)認証とは、天然の魚を食べ続けることができるように、海洋の自然環境や水産資源を守って獲られたシーフードに与えられる認証エコラベルで、日本でも、MSCやMEL認証(Marine Eco-Label)等とともに、こうした水産資源の持続的利用、環境や生態系の保全に配慮した管理を積極的に行っている漁業・養殖の生産者と、そのような生産者からの水産物を加工・流通している事業者を認証する制度の普及・推進が進められています。

また、国際的な資源管理の指標としてMSY(Maximum Sustainable Yield・最大持続生産量)というものがあります。「魚を減らすことなく獲り続けられる最大数量」としての指標です。「国連海洋法」にも、沿岸国としてEEZ内の水産資源を「MSY」とすることが記されています。漁獲量の減少を止めるためには、日本でも持続的な水産資源の利用を推進していくことが求められます。

なお、2020年までに水産資源を少なくてもMSYレベルに回復させることは、国連で2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の「海の豊かさを守ろう」の目標の中に含まれています。具体的には、「2020年までに、漁獲を効果的に規制して、乱獲や違法、無報告、無規制(IUU)漁業及び破壊的な漁業慣行を撤廃し、科学的情報に基づいた管理計画を実施することにより、実現可能な最短期間で水産資源を、少なくとも各資源の生物学的特性によって定められる持続的生産量のレベルまで回復させる。」と記されています。

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おいしい魚を食べ続けるために、私たち消費者も、意識と行動を変えて水産資源を守っていく。「獲り合って、安く、どんどん食べよう!」ではなく、貴重な天然資源を守りながら、みんなの共有財産として、将来を見据えながら、ありがたくいただく、という思いが大切なのですね。

・・・さて、お魚、買いに行こっと。おいしくありがたく、いただきまーす。

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(参考資料) 
・身近な割に全体像が見えにくい水産物の問題を、できるだけ正確に明らかにするために、データの提示と説明に多くを使いました。
・水産資源の問題は専門的で複雑になると思いますので、できるだけ簡略に述べさせていただきました。
・各国の輸出入量については、議論に加えませんでした。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_2_2.html
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R1/01hakusyo_info/index.html
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_3_1.html
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/t1_2_2_3.html
http://www.fao.org/fishery/statistics/software/fishstatj/en
http://www.fao.org/fishery/statistics/global-aquaculture-production/en
http://www.fao.org/faostat/en/#data/FBS/report
http://www.fao.org/state-of-fisheries-aquaculture
http://www.fao.org/3/a-i5555e.pdf

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