卸売市場用の運搬車「ターレ」がなぜ築地本願寺の境内に? 背景を尋ねると歴史と人情が満載だった 

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 豊洲市場(東京都江東区)や築地場外市場(東京都中央区)で見掛ける運搬車「ターレ」。そんなターレが走る様子を納めた動画付きツイートが注目を集めています。投稿したのは築地本願寺(東京都中央区)です。どうも運転しているのは僧侶に見えます。築地にあるお寺とはいえ、なぜターレが境内を走っているのでしょうか。背景を尋ねると、お寺と市場の深い関係がありました。

 築地本願寺は、浄土真宗本願寺派(本山・西本願寺、京都市下京区)のお寺です。1657年の明暦の大火に伴い、幕府から浅草(東京都台東区)からの移転を命ぜられ、現在地に移りました。移転先の場所が海上だったことから、海に土地を築き造った場所とのことで「築地」の地名が生まれたとされます。

 一方、築地が「市場の町」になったのは1923年の関東大震災で焼失した日本橋の魚市場などが移転してからのことです。

 そんな築地のお寺になぜターレがあるのでしょうか。築地本願寺の教化育成部長の石川勝徳さん(54)や築地場外市場の漬物店「広洋」の大澤一之さん(55)によると、実はこのターレ、「広洋」の所有で、2017年から寺の境内の一角にあるといいます。そのきっかけは築地場外市場で起きた火事にありました。

 2017年8月、築地場外市場で7棟が焼ける火事がありました。店に火の手が迫り、広洋の大澤さんはターレを築地本願寺に預けました。

 以前から、築地本願寺と市場の人たちには境内の盆踊りや地元のでイベントに協力するなど密接な関係がありました。そうした「ご近所さん」の関係から、大澤さんは火災後も「使ってかまわないから、ターレを置かせてもらえないか」と依頼したそうです。

 火災後しばらくは、大澤さんたちも築地本願寺に預けたターレを築地市場の内外の往復に使っていましたが、2018年10月に築地場内市場が豊洲に移転。大澤さんたちがターレを使う機会はめっきり減ってしまったといいます。

 この間、築地本願寺では、石川さんら数人がターレの運転を学びました。現在では、夏の築地本願寺納涼盆踊り大会の際に資材やごみを運ぶのに活用されているほか、年に数回使用しているといいます。ちなみに動画では落語会に使用する高座を運んでいたそうです。

 お寺の境内にあるターレには、築地ならではのお寺の歴史や人情、人間関係が満載しているようです。

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