誘拐に母の死、壮絶体験のパティシエが児童養護施設に贈り物 バレンタインに「希望届けたい」

京都新聞社 京都新聞社

 バレンタインデーに合わせ、京都市左京区の洋菓子店「むしやしない」のオーナーパティシエ鵜野友紀子さん(45)が、市内外の児童養護施設にチョコレートプリン約千個を贈った。背景には自身が子どもの頃、犯罪被害に遭ったり母親を亡くしたりした壮絶な体験がある。「かつての私のように深い傷を負っている子もいるはず。少しでも希望を届けたい」と思いを込める。

 「バレンタインの気持ちです。皆さんで仲良く食べてください」。10日午後、鵜野さんがプリンの詰まった箱を迦陵(かりょう)園(同区)のケアワーカー池場美遥さん(25)に手渡した。豆乳ベースで、乳製品の入っていないチョコを使ったアレルギー対応の商品だ。池場さんは「みんな甘いものが好きで、アレルギーのある子もいるので大変ありがたい。温かい支援の気持ちを子どもたちにも伝えたいです」と感謝した。

 プリンの寄贈は、コロナ禍で催しが中止になるなどして在庫が増えたのがきっかけ。「安く売るより、こんな時こそ社会貢献ができれば」と思い立ち、府や滋賀県の児童養護施設全17カ所に贈ることに。その準備の過程で、心の奥底にしまわれていたつらい過去とも向き合ったという。

 小学1年の時、児童館で知らない男に声を掛けられ、誘拐された。「断片的にしか記憶がなく、とにかく怖くて走って逃げた」。強いショックを受けた一方、カウンセラーが優しく接してくれたことを覚えている。

 母子家庭で育ち、小学6年の時には母が病で他界。一番上の兄が二十歳だったので施設には入らなかったが、きょうだい3人の生活となり、料理や洗濯など家事に追われた。「金銭面が大変で栄養失調になったこともある。勉強どころではなく、どう生き抜くかばかり考えていた」

 10代半ばで飲食店でアルバイトを始めたのが転機となり、料理人の道へ。後に菓子職人となり、30歳で独立して店を開いた。「生まれて15年間は壮絶な日々で、コンプレックスや自己否定もあったけど、その経験があるから今の彩りがある。苦しい境遇の子も自分の可能性に枠をはめないでほしい」と願う。

 プリンの箱には自身の生い立ちに触れた手紙も入れ、施設職員に対して「今後とも未来の子どもたちに愛をいっぱい与えてくださる存在でいてください」と記した。「これが縁となり、何かの形でこれからもお力添えになれたら」と鵜野さん。優しい笑みを浮かべ、そう思いを語った。

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