火災で休業中の老舗定食店に、復活を願うメッセージボード…「おなかいっぱいゴハン食べさせてね」

北村 泰介 北村 泰介

 コロナ禍で閉店を余儀なくされた飲食店が増える中、昨年末の火災で休業を余儀なくされた洋食系定食店の復活を願う声が店の前に置かれたホワイトボードへの書き込みやSNSで広がるという出来事があった。19年前から同店を度々訪れている記者は年明けのボード設置から何度か現場に足を運び、18日にその撤去を確認した時点で、地域のコミュニティーとなっていた同店の様子を振り返りつつ、そのメッセージを紹介する。

 昨年、12月28日未明に東京・高円寺で発生した火災で、3店舗の入った建物が全焼。幸い、けが人はなかった。現場はJR高円寺駅北口を出て徒歩1分ほど、飲食店が立ち並ぶエリアの一角。消防車のサイレン音を耳にしていた記者は、まさかこの場所が…という思いで、その日、立入禁止のフェンスで囲われた建物の前に立ちすくんだ。

 正月三が日が過ぎ、再び現場に行くと、全て休業状態となったうちの1店で、創業40年近くになる老舗定食店「グルメハウス 薔薇(ローズ)亭」前には、名物ママさんからのメッセージが掲げられ、それに呼応して常連客やファンの思いが書き込まれたボードが設置されていた。ママさんのメッセージは次の通り。

 「(ごあいさつ)皆様には大変ご心配をおかけしました。お店こそ焼けてしまいましたが私達は無事です。ご安心を-。お客様の『頂きます』『ご馳走さま』が聞けなくてとってもさみしいです。皆さんにはまだまだおいしいご飯を食べて欲しいのでマスターもお母さんもお店再開に向けて頑張ります。その日まではちょっと待っててね。コロナに気をつけるんだよ…。皆様の温かい思いやりが心に染みます。ありがとう」

 そして、フェンス前に置かれたボードには「薔薇亭のお母さん・マスターへ」と題し、2枚に渡って隙間なくビッシリと応援メッセージが書き込まれていた。

 「ご無事で安心しました。どうぞ気を落とさず、また元気なお姿を見せて下さい」「早く復活しておなかいっぱいゴハン食べさせてね」「カキフライ食べたい!!みそ汁絶品」「疲れたときいつもローズ亭のごはんで元気をもらっていました。今度は私たちが2人を元気づけたい。できることがあれば何でもしたいです」「再開をいつまでもまちます」「台湾のアーティストたちにとって薔薇亭は高円寺旅の大切な思い出そのもの。『マスター、ママ加油!!(頑張って)』」

 薔薇亭は、調理担当で職人肌のマスターと、造花のカチューシャを頭に飾り、カラフルな服装で接客するママさんが切り盛りする名物店としてメディアでもよく取り上げられた。2016年1月に放送されたTBS系「ぴったんこカン・カン スペシャル」では、俳優・荒川良々の案内で安住紳一郎アナらが訪問。かつて常連客だった荒川が「自分へのご褒美」として若き日に注文したという、3桁料金の安価な定食メニューが数ある中でも高額な「ガーリックロースカツカレー」(1200円)を味わう場面が紹介された。

 記者が同店を初めて訪れた2002年春、店内に置いてあるスポーツ紙を読みながら食べているとマスターに怒られ、食事しながら活字を読むことを禁止する旨の貼り紙を指で示された。そうしたルールが窮屈に感じて一度は足が遠のいたが、たまにフラッと訪れていた。食事中に鼻をかんでいると、ママさんが「風邪かい?ビタミンCもとらなきゃ」と言いながらミカンをくれたことを思い出す。清算の際にはたくさんの飴を差し出され、好きなものを選ばせてくれた。

 同店はチェーン店にはない「コミュニティー」になっていた。常連客が旅行や帰省先から手土産を持参し、そのうち民芸品はカウンターに飾られた。店内は1年中、七夕かハロウィーンか文化祭の教室かという感じで、数々の装飾品がぶら下がる。店と客、客同士の会話も尽きない。そんな密な関係が築かれてきたからこそ、今回のメッセージボードが自然発生的に生まれたのだろう。

 現場に行けない人たちもSNS投稿で「薔薇亭」にエールを送った。

 「飯食べに行ったらお母さんが優しくて優しくてお腹いっぱいにしてくれる大好きなお店。お父さんもお母さんも、無事やったのが救いやけどこんな時までどこまでも優しい」「ファンの寄せ書きが泣ける。ご老体だしこのご時世復活してくれって無理な要求とは思うけど薔薇亭が無きゃよぅ、ってみんな思ってるよな」「隙間なんて無いくらいびっしり愛のこもったメッセージが。みんな薔薇亭が大好きなんだ。早く復活して欲しいな」 

 18日、現場に足を運ぶと、ママさんのメッセージと共にボードはなくなっていた。厳しい「ご時世」にあって、この半月余りの間に、飲食店と常連客の絆(きずな)の深さという痕跡を街に残したことは確かだ。

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