先日、いつものようにウレタンマスクを着けて出勤しようとすると…突然妻から「ウレタンマスクは危ないからやめて」との声とともに、不織布(ふしょくふ)マスクへの交換を強いられた。
使い捨ての不織布マスクとは違い、洗えて何度も使えるウレタンマスクは経済的。しかも、ちぎれるような耳の痛みに悩まされなくても済むのだが…。
妻にウレタンマスクの危険性の根拠をただすと、関東地方のとある劇場が公式ツイッターで「ウレタンマスクでの観劇はお控えください」と注意喚起する文面を見たことがきっかけだという。
劇場のみならず、病院などでもウレタンマスクでの来院者を制限する動きがある。札幌市のある病院では、マスクなしの患者とともに「布製・ウレタン製マスクでご来院された場合は、お断りさせて頂く場合がございます」と、公式ウェブサイトで明記している。
ネット上で調べてみると、北海道札幌市で「ウレタンマスクお断り」を掲げる施設が目立つ。同市のある中学校は生徒、保護者に向けた「ほけんだより」で「札幌市保健所によると、職場や家庭などで感染者が出た場合、布製やウレタン製のマスクを着用している人は感染を拡大しやすいといいます」とした。
また「これは(札幌)市独自の判断基準で、布製やウレタン製は医療用のサージカルマスクや不織布製のマスクに比べ小さな飛沫(ひまつ)が防げないことから、感染リスクを低減できない」とし、行政が定めた基準に基づいたものと説明した。
電話で問い合わせたところ、札幌市保健福祉局の担当者は「市や保健所として、そのような判断基準を公式に学校などに通達したり、市民にお伝えした事実はありません」とする。
SNSなどでの拡散を受け、ネット上では昨年春に飛び交った「マスク警察」ならぬ「ウレタンマスク警察」なる言葉も見かけられた。学校や職場で、ウレタンマスクの使用を控えるよう求められる例が続出している。「ウレタンマスク=飛沫を防げない」論の根拠として、豊橋技術科学大学の飯田明由教授の研究による「コロナウイルス飛沫感染に関する研究~マスクの効果と歌唱時のリスク検討~」の「データから見るマスクの効果」と、その研究をもとに全音楽譜出版社が作成したイラストを引用する人が多かった。
飯田教授の研究によると、吐き出す飛沫量と吸い込む飛沫量において、不織布マスクではマスク非着用時に比べそれぞれ20%、30%にまで量を抑えられるのに対し、ウレタンマスクでは50%、60~70%となり、確かに効果が低いことがわかる。
ただ、この研究結果はあくまで「素材の違いにより効果や圧損に違いがあるが、感染抑制には一定の効果があり、マスクを着用することが望ましい」とするもの。
豊橋技術科学大学の担当者は「ツイッターなどで拡散されていることは把握しているが、実験結果は決して一部の素材のマスクをしないでという意味ではない。教授の思っていることとは、違う趣旨のことで残念に思っている」とし、ウレタンマスクの着用を薦めないものではないと強調した。
イラストを作成した全音楽譜出版社の担当者も、同様に「豊橋技術科学大学や理化学研究所のスーパーコンピューター富岳(ふがく)のシミュレーションをもとにイラストを作成したもので、ウレタンマスクの使用を薦めないと言っているわけではない」とした。