百恵さんが歌う様子をレコーディングで間近に見ているし、武道館でのファイナル・コンサートも肉眼で見ている。改めて宇崎が思うのは「あの歌がどうのではなく、やっぱり“山口百恵ってすげえな!”ということ。ありがたいことに色々な方が『さよならの向こう側』をカバーしてくれているけれど、自分自身も含めて誰一人百恵さん以上のものを感じさせてくれた人はいません。テクニックや鍛錬の問題ではない何かを百恵さんは宿している。あの世代であれだけの表現力を持って歌える人は、美空ひばりさん以来だと僕は思っています」と持って生まれた才能に畏敬の念。
百恵さんは人気絶頂最中の21歳で芸能界を引退した。それ以降、表舞台からは一線を引いている。その潔さも唯一無二。「彼女は覚悟を決めて芸能界を引退し、覚悟を決めて結婚をしています。しかしそれこそが百恵さんが望んだこと。幸せな家庭を作りたい、妻になりたい、母になりたいという自分が望む姿をその通りに実践している。だから絶対表に出てくるわけはないし、引退した時から本人にその気はまったくない。引退時21歳ですよ?そういったことをすべて含めて、“山口百恵ってすげえな!”と思う」。40年を経てもなお、思い出と存在はますます大きくなるばかりだ。
引退後も百恵さんとのプライベートでの交流は続いている。宇崎&阿木プロデュースの舞台『FLAMENCO曽根崎心中』には、百恵さんの長男で歌手の三浦祐太朗が出演。ちなみに宇崎が百恵さん以外の『さよならの向う側』で唯一唸ったのが、祐太朗によるカバー曲だったりする。
「百恵さんの歌声には、本人も気づいていない凄まじい情念が宿っている。そのDNAを祐太朗君が見事に引き継いでいる。彼の声には山口百恵の影と魂、そして情念がある。しかも彼には芸能界で生きる人にありがちな“俺が!俺が!”という自意識がまったくない。それは百恵さんも同じで、その夫である三浦友和さんも、次男の貴大君もそう。みなさん至ってノーマル。なのにすさまじいエネルギーを持っている。もはやあの一家全員に“すげえな!”と言えますね」と目を丸くしながら笑う。
宇崎は、在宅医療を題材にした映画『痛くない死に方』(2月20日公開)に出演。陽気な末期がん患者を演じている。高橋伴明監督とは主演映画『TATTOO<刺青>あり』(1983年)以前からの仲だけに「伴明監督の注文通りにやればOKですから、まったく難しくありませんでした。今回演じた役柄の中に伴明監督の人格も多分に含まれていたので、何十年にも渡る仲間である彼をそのままそっくり演じればいいだけでした」と余裕の表情だ。