芸能人「さん」付け報道にはルールがあった? 敬称付ける・付けないのめどは「没後30年」

どなどな探検隊

杉田 康人 杉田 康人

まいどなニュース編集部に、ユーザーからこんな疑問が寄せられた。
「スポーツ紙を読んでいて疑問に思ったことがあります。どうして、それまで呼び捨てだったのに、亡くなった有名人には急に『さん』を付けるのですか?それなら、戦国武将などにも『さん』を付けないといけないのに、どうして織田信長は呼び捨てなのでしょうか?」。

コロナ禍での、志村けんさんの死。ドリフ世代の記者のみならず、大きな衝撃を与えた。スポーツ紙「デイリースポーツ」では、2020年3月26日の紙面で、志村さんの新型コロナウイルス感染のニュースを、以下のように伝えている。「お笑いタレントの志村けん(70)が、新型コロナウイルスに感染し…」。

日本中が悲しみにくれた3月31日の同紙は「タレントの志村けんさんが29日午後11時10分、新型コロナウイルスによる肺炎のため死去した。70歳」と報じ、呼び捨てだった表記が急に「志村けんさん」になっている。これは亡くなった方への敬意を表すものと理解できる。

ただ、筆者も新聞記者になって以来、亡くなった芸能人やスポーツ選手を記事にする際、盲目的に「さん」や「氏」の敬称を付けてきた。一方、同じ亡くなった人でも、質問にあった戦国武将ら歴史上の人物にはもちろん敬称を付けていない。そこに何の疑問を感じたことはなかったが…。

スポーツ新聞をはじめ多くの新聞、通信、放送の文章表記は、統一性をもたせるために共同通信社の「記者ハンドブック 新聞用字用語集」に準拠している。記者の“あんちょこ”ともいえるハンドブックを開いてみた。【敬称】のページを見ると、記者も知らなかったある“ルール”が記されていた。

【敬称をつけない場合】
歴史上の人物(歴史上の人物として定着したかどうかは没後30年をめどとする)。

記者ハンドブック 新聞用字用語集 第13版より

注目は「没後30年をめどとする」という箇所だ。ルールにならえば、2021年の30年前…1991年より前に亡くなった人が「さん」付けになるかならないかの対象になる。85年に早世した女優の夏目雅子さんや、89年に旅立った美空ひばりさんを、呼び捨てにするのはどうもはばかられるが、織田信長には敬称をつけなくても違和感はないような…。そもそも、なぜ30年なのか。「さん」を付ける、付けないを決める判定会議なるものが存在し「30年」という期間を制定したのか。発行元の共同通信社に聞いた。

まず、亡くなった芸能人に敬称を付ける理由について、同社の担当者は「芸名は呼び捨てが原則ですが、やはり亡くなった方への敬意は必要。自らの仕事に関わる記事の場合は呼び捨てになる。それ以外は敬称を付ける」と説明した。

共同通信社では「死亡、事件、事故、善行、訴訟は呼び捨てとしない」としており、「たとえば爆笑問題の太田光の訴訟では、すべてさん付けです。ただ、最近は芸能人が政治家になったり、文筆家になったりして何が本業かと考えることもあり、そのたびに敬称をどうするか難しくなっている面もあります」と話した。

次に敬称を要する、または不要となる判定基準として「30年ルール」については「歴史上の人物は評価が定まっており、敬称を必要としない。没後30年となると、生前の功績を同時代で共有した人が少なくなり、客観的存在となるため、敬称が不要と判断している」と解説した。また、判定会議こそないものの「個別個別で判断する。30年とあるが、ある程度は柔軟に扱う。やはり、同時代を生きた人は敬称なしでは違和感があるだろうとの判断がある」とした。

高齢化で現役時を覚えている人が増えているため、没後30年を過ぎても敬称を付けるケースが増えており、同担当者は「30年の見直しも検討されると思います」。「さん」付けのルールも、今後徐々に変わってきそうだ。

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