愛されて半世紀…神戸が誇る旧作2本立て映画館 正月は50年前の「男はつらいよ」2本を記念上映

黒川 裕生 黒川 裕生

音楽も映画も定額配信が隆盛の今、年明けに開館50年を迎える老舗の映画館が神戸にある。パルシネマしんこうえん。ロードショーを終えた作品を2本立てで上映する、今では珍しくなった名画座だ。祖父が始め、父が長年守ってきた劇場を現在運営しているのは、36歳の小山岳志さん。大手シネコンやDVD、配信との競合や新型コロナウイルスの感染拡大などによる苦境に見舞われながらも、「映画館で映画を見る」というささやかな娯楽の灯を街の片隅でともし続けている。

パルシネマしんこうえんは、湊川公園という小高い公園の“半地下”にある。スクリーンのある客席へは、入口から階段でさらに下へ。初めて訪れる人は、その不思議な構造にちょっと驚くかもしれない。料金は通常2本立てで一般1300円、シニア1100円など。

岳志さんの祖父は、もともと“上”の湊川公園内で10年ほど「公園劇場」を経営していたという。しかし公園の改修に伴い取り壊しに。1971年1月1日、「新公園劇場」として今の場所で再スタートし、経営を引き継いだ岳志さんの父康之さん(76歳)が86年に「パルシネマしんこうえん」に改めた。ちなみにパルは「仲間、友人」などを意味する英単語「pal」に由来している。

10年前に康之さんから支配人の仕事を引き継ぎ、5年ほど前からは番組編成も全て手掛ける岳志さんは、Twitterなどでの発信にも力を入れる。またオールナイト上映など、これまでにない企画にも積極的に挑戦して注目を集め、少しずつ新たなファン層も開拓。2019年6月にはジェームズ・キャメロン監督「タイタニック」(1997年、アメリカ)の国内最終上映を敢行し、大きな反響を巻き起こした。

しかし今年はコロナ禍で4月から5月にかけて約1カ月半の休館を余儀なくされ、極めて厳しい状況に。どうにか持ち直しつつあった11月、また感染者が増え始めると、目に見えて来場者が減少。12月現在、依然として好転する兆しは見えていないという。

それでも50年は大きな節目。記念すべき正月(1月1日〜9日)のラインナップには、ちょうど50年前に公開された「男はつらいよ」第6作の「純情篇」と、第7作の「奮闘篇」を選んだ(いずれもフィルム上映)。さらに、1月28日〜2月4日には「小さな恋のメロディ」(1971年、イギリス)と「ロバと王女」(1971年、フランス)の2本を用意。岳志さんは「なかなか声を大にして『映画館に来てください』とは言えない状況ですが、これまでパルシネマを愛してくださった皆さんに喜んでいただけるような、そしてパルシネマが開館した頃の雰囲気を懐かしく思い出していただけるような、50年前の名作を厳選しました」と話す。

「今はコロナでいっぱいいっぱい」と苦笑する岳志さんだが、「『パルシネマで見たい』と言ってくださる常連さんや、パルシネマのことをまだ知らない人たちに届けるためにも、これからも1日1日大切に映画を上映していきます」と力を込める。貸し館の取り組みも前向きに検討するといい、「映画の上映だけではなく、設備的にはスクリーンでゲームをプレイしたりもできます。活用のアイデアがある人はいつでも相談を」と呼び掛けている。

「思いがけない作品と出会えるのが名画座の魅力であり、役割だと思っています。お客さまからの『この映画、良かったよ』という一言を励みに、映画館の魅力を伝えられるよう精進します!」

◇年末年始の予定◇

【12月31日】
大晦日特別上映と題して、「リトル・ミス・サンシャイン」(2006年、アメリカ)、「mid90s」(2018年、アメリカ)、「6才のボクが、おとなになるまで。」(2014年、アメリカ)の3本を上映。午前11時から。午後5時50分頃終了予定。

【1月1日〜9日】
「男はつらいよ」純情篇、奮闘篇の2本立て。50周年を祝して、来場者には先着で記念品のプレゼントがある。このほか、50周年のオリジナルマグカップなどのグッズ販売も予定している。

http://www.palcinema.net/

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