郵便事業が民営化されても、用語や隠語の類が旧郵政省時代からコロッと変わるわけではない。今も使われ続けている言葉の数々を、現役郵便職員のY.Kさんに聞いた。
「ゆうメイト」はアルバイト、「本務者」は正社員のこと?
「ゆうメイト」は民営化前に使われていた非正規雇用職員の総称で、しかも正式名称ではなかったという。
「2007年の郵政民営化で、ゆうメイトという呼び方は廃止されました。今は期間雇用社員とか時給制契約社員といいますが、平たくいうとアルバイトですね。昔の名残で、今でもアルバイトの人を『ゆうメイトさん』って呼んでいます。」
一方、「本務者」は正社員のことを指す。
「本務者は営業ノルマがあるし、残業もほぼ毎日なので大変です」
とくに夏の「かもめ~る」と、年末の年賀はがきの販売ノルマが厳しいという。
「機械区分」できなかったら「手区分」して、そのあと「順立て」して配達に出発
郵便ポストから集められた郵便物は、住所ごとに機械が読み取って区分する。これを「機械区分」という。だが機械は万能ではない。機械が読み取れなかった郵便物は、人間が手作業で区分(手区分)するのだ。
機械が読み取れない原因には何があるのだろう?
「郵便番号とか住所を書く人間のミスが多いです」
郵便番号と住所が一致していない、あるいはどちらかが書かれていない郵便物もあるらしい。
区分が終わったら、配達順に並べなおす作業がある。これを「順立て」といい、局や地方によっては「道順」とか「組立て」とも呼ぶ。定時に帰れるかどうかは、この作業をいかに早く終わらせるかにかかっている。
「順立てをやるのは、自分たちが『順立てゆうめい』と呼んでいるベテランのゆうメイトさんです。年配のお姉さんが多いので『道順のおばちゃん』ともいいます(笑)」
熟練になると、新人の10倍近い早さで並べていくそうだ。
「アラモン」が渡せなかったら「マルツ」を入れて持ち帰り
定形外の郵便物を「アラモン」「粗物(あらぶつ)」「ザツ」「オオモノ」などと呼ぶ。
受け取りにハンコが要る郵便物や、普通郵便でも郵便受けに入らない大きさだったら受取人に直接渡さないといけない。留守だったら、その旨を記した通知書(郵便物等ご不在連絡票)を入れていったん持ち帰り、局に留め置く。持ち帰った郵便物にはカタカナの「ツ」を丸囲みした記号を記した用紙を貼って、専用の保管容器に入れられる。
「丸囲みに『ツ』だから『マルツ』です。郵便受けに入れる不在連絡票と、用紙を貼った郵便物の両方を指します」
これにもいろんなバリエーションがあって「丸ツ」「丸ツー」「丸ツウ」「丸通」「マルツウ」などと呼ばれる。ちなみに郵便物のことを総称して「ブツ」と呼ばれる。
アベノマスクは「計配(けいはい)」、年賀状は「前送(ぜんそう)」で対応
「計配」とは「計画配達」のこと。
「ブツの量が多すぎて、1日で捌ききれないときは『計配』になります」
郵便物の量は毎日一定ではない。捌ききれないほど多いときは、何日かに分けて計画的に配達する。ということは今年の春、全世帯に配布された、いわゆるアベノマスクも計配だった?
「配り方は局や班によって様々でしたが、基本的に計配でした。うちの班は数名のマスク要員を編成して、数日に分けて配達しました」
集配課には1人の班長の下に10人前後で構成される『班』があって、業務連絡や配達する郵便物の量などは、毎朝行われるミーティングで班長から伝えられる。アベノマスクのときは、班の中にマスク要員を特別編成したということだ。
◇ ◇
ところで、郵便物が集中する時季といえば、正月の年賀状がある。2020年用の年賀はがきは約24億4千万枚が発行された。そのすべてが元日配達に合わせて差し出されるわけではないけれど、元日配達分は相当な枚数になる。
「さすがに年賀状は『計配』できませんから『前送』という方法を取ります」
あらかじめお願いしておいたお宅に12月31日、年賀状の入った袋を置かせてもらう。元日にバイクや自転車に載せられる分を取り出しては配達を続ける、いうなれば前線の補給基地のようなもの。
「いちいち局まで取りに戻るより効率がいいです」
年賀状を元日に配達するためには、このように一般家庭の協力もあったのだ。
「鉄筋(てっきん)」「平地(ひらち)」「現住(げんじゅう)」…etc.
最後に細かい用語をいくつかご紹介しておく。
・鉄筋……マンション、ハイツ、アパート、団地など集合住宅のこと。
・平地……鉄筋に対して戸建て住宅のこと。鉄筋以外はすべて「平地」と呼ぶ。
・現住……現在住んでいること。
・突欠(とっけつ)……無断欠勤。突発的な欠務だから「突欠」。
・欠区(けっく)……配達要員が足りない状態。1人足りないと「一欠」、2人足りないと「二欠」という。