藁(わら)で書く「わらもじ」を世界に広めたい…3人の若者の挑戦

平藤 清刀 平藤 清刀

稲藁を束ねた筆「米筆(まいふで)」を使い、自由な発想で「書」を書く「わらもじ」に魅せられ、普及に取り組む3人の若者がいる。

「わらもじ」誕生のきっかけは、ある作家のひらめきから

大阪府泉大津市の住宅街にある「アトリエSubaru」。大阪芸術大学で日本画を学んだ3人の若者、尼崎彩希さん、高山滉平さん、中川翔太さん(順不同)が芸術活動の拠点にしている。この3人が今「日本の新しい文化にしたい」と普及に取り組んでいるのが「わらもじ」だ。

「わらもじ」とは、筆の毛の代わりに稲藁を束ねた「米筆」で書く書道。

始まりは平成5年頃、脚本の執筆や作詞を手掛けていた作家の清水藁水(しみずこうすい)氏がひらめいて試してみたところ、毛筆とは異なる形やカスレが表現され、自身でも驚くほど味わい深い書になった。これが原点となって創作活動が始まり、「わらもじ」を商標登録した。

「ご親族に米作りの農家さんがおられて、藁が身近にあったそうです」(尼崎)

しかし体調面の不安から、創作活動を畳もうと考えていた。そんな矢先、尼崎さんの記憶では3~4年前、のちにアトリエSubaruを開く3人の芸大生が、清水氏の書を見て感銘を受ける。「わらもじ」書家を引退する意思を固めていた清水氏に頼み込んで、最後の弟子として師事した。

「先生のもとで2年間学ばせていただきました」(尼崎)

そして清水氏に師事した3人の若者は「わらもじ」の正式な継承者として商標権を譲り受け、イベントやワークショップ、商品ロゴなどを制作して「わらもじ」の普及活動に取り組んでいるのだ。

「米筆」は1本ずつ手作り

「わらもじ」は稲藁を束ねた「米筆」に墨を含ませて、厚口の半紙に書く。半紙は市販のものを入手できるが、米筆は自作するしかない。

「地元の泉大津をはじめ、和歌山県や奈良県の農家さんにもお願いして、収穫後の藁を譲っていただいています」(中川)

米を収穫した後の藁は、農家にとっては廃棄物になる。そのため藁は無償で手に入るのだが……。

「1反(約990㎡)分の藁をいただきますから、保管が大変です」(高山)

しかも藁は完全に乾燥しきっていないため、充分な換気のできる倉庫で保管しなければならない。

また、譲り受けた藁が、すべて筆に加工できるわけではない。

「折れていないことと傷んでいないこと、そしてしっかり渦を巻いていて芯が詰まっている藁が米筆に適しています」(中川)

産地や品種は、書き味に影響するのだろうか。

「清水先生は、他の品種やもち麦でも試されたことがあるみたいですが、農家さんから聞いたのは、平地と山側とで比べると、山側で育った稲は硬いそうです」(尼崎)

「硬いということは芯が詰まっているので、書きやすい筆ができます」(高山)

ところで、藁は農産物だから、品質は必ずしも一定ではないはずだ。できあがった筆の書き味も、1本1本すべて違うのでは?

「1本1本違いますね。使う人との相性も違います。最初に使った筆ではうまく書けなかったのに、筆を替えてみたら思い通り書けたということがあります」(高山)

筆先を斜めにカットする角度も60度、長さ40mm(大きいサイズの筆)と決まっているそうだ。

「いろいろ試して3人で決めました。でもまだ、試行錯誤は続いています」(尼崎)

価格は未定だが、来年の春には米筆をネット販売する計画がある。今使っている米筆は軸が木製で、木工職人に頼んで削り出してもらったもの。量産タイプでは軸を樹脂製にして、洗練されたスタイルになる。

わらもじの面白さとは

アトリエSubaruを訪れた日、「わらもじ」のワークショップが行われていた。下は高校2年生から上は妙齢のご婦人まで年齢層は幅広く、また初心者から「何回も参加しています」というベテランまで6人が参加していた。

最初はまっすぐに線を書く練習から始まって、しだいにレベルアップ。2時間のあいだにそれぞれ思い思いの「書」をしたためて、最後はパネルに仕上げる。

「わらもじの特徴は、書き順、トメ、ハネのルールに縛られないことです。読めたら文字です」(高山)

字がうまいとか下手ではなく、書き手の想いを筆に乗せて自由に書いていい。

「書道の基礎から学ばなくていいの?」という疑問をもつ人もいるそうだが、小中学校の国語で漢字を習ってきたから、基礎はすでにクリアしているという。だから書道の経験がない人も、すぐに始められるのが「わらもじ」の魅力だ。

   ◇   ◇

1人の作家によって生まれた「わらもじ」。3人の若者が正式に継承し、わらもじ書家として活動を始めてまだ日が浅い。それでも夢は大きく広がっている。

「1人でも多くの人にわらもじを知ってもらって、わらもじ人口を増やしたいです。将来的にはわらもじの『教室』『デザイン』『筆』の3部門を広めて、日本の新しい文化として世界へ発信したいと考えています」(尼崎・高山・中川)

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▽アトリエSubaru
TEL 0725-21-1363
〒595-0026 大阪府泉大津市東雲町6-19
10:00〜18:30 定休日 火曜日
https://kyoshitu.design/

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