「ハンコ」と「印鑑」って、実は別物! 「印章」「印影」も違うらしい…<はんこ業界編>

おもしろ業界用語

平藤 清刀 平藤 清刀

行政手続きのハンコが廃止されることになって、あらためて「ハンコ」が注目されている。そしてここにも「つくる人」と「売る人」がいて、ハンコ業界というものが存在する。ハンコにまつわる用語を元彫刻士のT氏に聞いてみた。

ハンコ・印鑑・印章・印影……正しい呼び名はどれ?

役所で届け出とか手続きをする際、あらかじめ電話で「何をもっていったらいいですか」と問い合わせたら、たいてい「忘れずに印鑑をもってきてください」といわれるように、「ハンコ=印鑑」というのが一般的な認識のようだ。だが、うるさいことをいえば「ハンコ」と「印鑑」は別物だという。

「ハンコから説明しますと、名前が彫られた円柱や角柱の物体がありますよね。専門用語で『印顆(いんか)』といいますが、あれがいわゆる『ハンコ』です。『印章(いんしょう)』ともいいます。『印鑑』は、ハンコを紙に押した際に残る跡のことで『印影』ともいいます」

通常ここまで細かい用語の使い分けがされていないため、一般的には「印鑑」も「印章」もひっくるめて「ハンコ」の意味で使われているというわけだ。

ふと気になったが、なんで「ハンコ」なんだろう? 漢字では「判子」と書くようだが。

「江戸時代に、版画の版木を『版行(はんこう)』と呼んでいました。それが転じて『ハンコ』になったといわれています」

では「押印(おういん)」と「捺印(なついん)」も違うのだろうか。どちらも「ハンコを押す」という意味で使われている言葉だ。

「ハンコを押すという動作は、押印も捺印も同じです。しかし、その前提が違うといいますか、その前につく言葉が省略されたいい方なのです」

「押印」とは「記名押印(きめいおういん)」が略されたいい方だという。「記名」はゴム印を押したりパソコンで印字したりするなど、自筆以外の手段で名前を記すこと。ここにハンコを押すことを「押印」という。

一方「捺印」は「署名捺印(しょめいなついん)」が略されたいい方で、自筆の名前にハンコを押すことをいう。

余談ながら、「押印」と「捺印」が合わさったような「押捺(おうなつ)」という言葉がある。これは「拇印(ぼいん)」を押すという意味だそうだ。

アニメキャラクターが彫られたハンコでも銀行で通用する

「アニメに限らずいろんなキャラクターがありますけど、名前と一緒にキャラクターを彫ったハンコを『痛印(いたいん)』といいます。銀行口座の届出印とか認印に使えますし、オリジナルのイラストを入れたら偽造防止にもなりますから人気があります。痛印の専門店もあるそうですよ」

ただし、銀行印として認めるか否かは、銀行によって判断が分かれるという。A銀行では痛印で口座がつくれたけれど、B銀行では拒否される場合がある。

まさかとは思うが、痛印を実印登録することはできる?

「実印には文字以外を入れてはいけない規定がありますから……」

ということで、痛印での実印登録はダメ。通用するのは「銀行印」と「認印(みとめいん)」だけのようだ。

ちなみに「実印」とは、住民登録をしてある役所や役場に登録し、不動産取引や遺産相続の手続きなどに使われる効力の強いハンコのこと。法的には、実印登録していないハンコはすべて「認印」だそうだ。

ハンコ各部の名称

「ふだん私たちが使っているハンコって、指先でつまめるくらいの小さなものですけど、あれでも各部に名称が付いているんですよ」

では教えていただこう。

「『印面(いんめん)』を下にして、上から『天(てん)』『印材(いんざい)』『アタリ』という部位があります」

・印面……文字や絵を彫ってある面。「ハンコを押す」とは、ここに朱肉をつけて印影をとること。

・天……印面の反対側の面で、形は半球や平面だったり彫刻が施されていたりする。

・印材……ハンコの胴体部分。木材、牛角、チタン、樹脂など。

・アタリ……印面を見なくてもハンコの上下を確認できるしるしのこと。削りが入っていたり、高級なハンコだと宝石がはめ込まれていたりする。「サグリ」とか「前印(まえじるし)」ともいう。

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