外食産業の中でも、家族連れやおひとり様、老若男女あらゆる年齢層のお客さんと接するファミリーレストラン。略してファミレス。スタッフどうしのやり取りがお客さんに分からないよう、さまざまな用語・隠語が飛び交う。大手ファミレス3社を渡り歩いて店長を務めたJさんに聞いた。
数字は隠語の定番。「1番」「3番」「5番」といえば、もちろんアレのこと。
「接客業って、トイレへ行くことをなぜか番号でいいますよね。ファミレスも例外ではありません」
「1番行ってきます」は「トイレへ行ってきます」という意味。店によっては「3番」といったり「5番」といったりもする。
「そして『1分です』は小、『5分です』は大のこと。そこまでいうかって感じですけど(笑)」
こうして隠語を使うのは、格好をつけて気取っているからではない。食事を楽しんでいるお客さんに、不快な思いをさせない配慮なのだ。
「だからトイレ掃除のことも『さわやかチェック』と呼ぶ店があります」
ほかには、スタッフの休憩も番号で表すことがある。
「トイレを3番と呼ぶ店ですと食事休憩を『1番』、15分の短い休憩を『2番』または『ブレイク』と呼んでいました」
飲食店の天敵「太郎君」と「次郎君」
ホールの掃除をしていた女性スタッフが「きゃっ」と短い悲鳴を上げて、事務室へ駈け込んでくる。「店長! 6番テーブルに太郎君がいます」
「そうか。君、頼むわ」
ご指名を受けたバイト君が「うぃ~す」と出動すると、そこには6本脚の黒光りする物体がカサカサと蠢いている。
「そう。太郎君というのは、ゴキブリのことです」
ほかに「次郎君」もいて、これは「ハエ」のこと。
ゴキブリを「五木さん」と呼ぶ店もある。「五木(ごき)」の語呂合わせだそうだ。
「たんに『G』と呼ぶ店もありますね」
いずれにしても、ファミレスにかぎらず自宅でもお目にかかりたくない面々だ。
「アイドルタイム」「バッシング」ってなんかヤバそう?
「いやいや、そうじゃないですよ。『バッシング』のほうからいうと、お客さんが帰られたあと、テーブルの上を片付けて、次のお客さんをご案内できるように整えることです」
ウェイターやウェイトレスの助手をする意味をもつ英語の『bus』が語源になっているそうだ。
では「アイドルタイム」とは?
「お客さんが少ない、あるいは1人もいなくなって、暇になった時間のことです」
これも英語の「idle」からきており、「仕事のない」「暇な」「あいている」などの意味がある。
「アイドルタイムを利用して、新人さんに『トレンチ』を練習させることがあります」
「トレンチ」は「お盆」のこと。ベテランのスタッフから「新人はトレンチもってきて」とお声がかかると、片手でトレンチを運ぶ練習の始まりだ。
逆にお昼や夕方などの食事どきで、最も忙しい時間帯を「ピークタイム」という。
ピークタイムの客捌きは、「1way3job(ワンウェイ・スリージョブ)」がモノをいうらしい。
「注文された料理をテーブルまで運んだら、水を足す、ほかのテーブルでオーダーを取ったり、お客さんが帰られたテーブルをバッシングしたりするなど、いちどホールに出たら3つの仕事を片付けて、いかに効率的よく仕事を進めるかが店の売り上げにも影響します」
「最後に『シルバー』って分かりますか?」
年配のお客さんのことかなと思ったら、じつはナイフ、フォーク、スプーンのこと。高級レストランには銀製もあるが、ファミレスでそんな高級品は使わない。ステンレス製でもシルバーなのだ。面白いのは「箸」も、ファミレス界ではシルバーと呼ぶことだ。