ノラ猫・保護猫の不妊手術専門病院『のらねこさんの手術室』 一日平均40件でTNR活動をサポート

岡部 充代 岡部 充代

 大阪・池田市にちょっと変わった名前の動物病院があります。『北摂TRNサポート のらねこさんの手術室』――その名の通り、ノラ猫たちのTNR(Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)をサポートし、ノラ猫や保護猫の不妊手術を専門にしている病院です。

 2015年の開院以来、3万1500件を超える手術を行ってきました。一日平均40件、多いときは60件以上。それに加え、ケガをしている猫の治療やワクチン接種、エイズや白血病の検査等もありますから、スタッフたちは多忙を極めて疲弊して……と思いきや、基本的に週休二日以上が確保され、それぞれの事情に合った働き方ができているのだとか。獣医師4名は全員、女性です。

「一般の動物病院は夜7時、8時まで診療しているところが多いですし、担当患者を持てば継続的な診察も必要になる。どうしても拘束時間が長くなってしまうので、結婚・出産を機に辞めてしまう女性獣医師も多いんです。でも、うちは不妊手術専門ですからシフト制を敷けますし、週3日勤務の獣医師もいますよ」

 そう説明してくれたのは代表取締役で動物看護師の安田和美さん。北摂TNRサポートは株式会社なのです。今から5年前、同じ動物保護団体で働いていた秋本真奈さん(取締役)と一緒に独立しました。

「地域猫活動にも力を入れている団体だったのですが、不妊手術できる頭数には限りがありました。結果的に子猫が生まれて、中には保健所に行った子もいるはずです。そこで、もっと手術をやっていきたいね、ということになり専門病院を作りました」(安田さん)

「依頼はあるのに受け切れなくてフラストレーションがたまりました。こういう活動をしていながら救えないなんて何をやっているんだろうと、悔しくて泣いていましたね」(秋本さん)

 保護活動に携わるすべての人が感じていることかもしれません。でも今は「やりがいがあって楽しい」と口をそろえます。

 不妊手術専門の動物病院は増えていますが、のらねこさんの手術室で特徴的なのは捕獲・送迎も請け負っていることでしょう。近所にいるノラ猫に不妊手術を受けさせたいけど、捕まえ方が分からないという人も多いはず。そんなとき、のらねこさんの手術室に依頼すれば、捕獲専門スタッフ(現在3名)が来てくれ、病院まで搬送し、手術後は元いた場所まで戻しに来てくれます。片道3時間以内ならOKだそうで、三重や岡山、四国などから依頼の電話が入ることも。手術件数の多さからも分かるように、それだけニーズがあるのです。

「不妊手術の専門病院はもっともっと増えていいと思います。池田にもう1つあっても大丈夫。9~12月の“繁忙期”はお受けし切れないこともあるので。捕獲から携わっていると、どんなごはんを食べていたのかとか、手術に必要な情報収集がしやすいですし、最後はリターンして依頼者さんと話して終わるので、第二の“猫生”を歩み始めるところまで見届けることができる。いいことづくめですよ」(秋本さん)

 捕獲担当の中に写真が趣味というスタッフがいて、リターンしたノラ猫の“その後”を撮影しているそう。第二の猫生を懸命に生きる猫たちの姿は、素敵なポストカードになって販売されています。

 獣医師4名、捕獲担当3名のほか、看護師が4名在籍。安田さんと秋本さんを含めて13名のスタッフで運営していますが、「それぞれの立場で猫のためにできる最高のことをするようにしています」と安田さん。「NGがないんです。猫にとっていいことなら何でもやればいい。限られた時間の中ですが、してあげたいことは全部できます。それがやりがいや充実感につながっているのではないでしょうか」

 環境省の発表によれば、平成30年度の猫の殺処分数は全国で3万757匹、そのうち2万234匹が幼齢の猫だと言います。

「不幸な命を生み出さないためには不妊手術が必要なんです。TNR専門病院が増えることで殺処分ゼロに近づけることができる。そのモデルケースに大阪はなれると信じています」(安田さん)

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