店内にあるメインの大きなレイアウト(鉄道模型台)は、日本の高度経済成長期、1970年代の地方の町をイメージしています。海や山や川があって、故郷ってこんなんやったよなあと思い出してもらえるような懐かしい情景です。縮尺は1/150。山の木々や街並み、駅のホームに立つ人など、細部にまでこだわったフルスクラッチ(手作り)です。お客さんは自分の車両を持ってきて、模型運転を楽しむことができます。
大きなレイアウトでは、お客さんがいる営業中は猫を出すことはありません。持参されたお客さんの大切な車両を傷つけたりしたらいけませんからね。猫を放つのは営業が終わったあとです。自由に遊んでいいよと。電線には微弱の電気が流れてはいますが、人や猫が触れても安全なように作ってあるので心配はいりません。3匹は山肌で爪をとぎ、トンネルに入ったり出たりする電車に猫パンチをくらわすなど、まるでゴジラみたいに好き放題やってくれるんですけど、猫たちはこの店内で何をやっても許す、というのが僕のスタンスなんです。
精巧に作られた模型台の上に猫を放したりして、壊されたり、叱ったりしないんですか?とよく聞かれるのですが、もちろん壊されます(笑)。僕も当初は覚悟いったんですよ。でも、3匹の子猫たちは、元々野良で、自由やったわけですから。今は完全室内飼いとはいえ、1日中ケージの中に閉じ込めておくのはかわいそうやなと。
週1、2回、専門のスタッフが保守点検にきてくれてるんですが、その彼には「君や僕らのすごい思い入れがあって作ってるもんを、まさか猫に壊されるなんて、思ってもみいひんかったやろう。心から悪い思うてる。せやけど、営業が終わったら、あの子たちの自由にしてあげたいねん。だから許してくれへんか」と本音で話したら、わかってくれました。僕らはジオラマ製作に長年携わってきたプロですから。多少壊されてもすぐ元に戻せるんです。
もうひとつ、奥の部屋(猫部屋)に小さいレイアウトがあり、こちらは国鉄時代末期の電化線のある都市の街並みです。お客さんが猫たちと触れ合えるのはこの部屋内です。猫たちの家(ケージ)が置いてあり、この小さいレイアウトでは、上に乗ったり走り回ったり、子猫たちの自由にさせています(入場は夜8時まで。人数制限あり)。
この子たちを保護したときから、SNSで猫たちのことをずっと発信してきました。鉄道のことを書いても反応はぼちぼちやったのに、店で過ごす猫たちの日々の様子を動画でアップすると、信じられないほど「いいね」の数が増えました。動画だと模型の縮尺がわからないからか、「この猫たちの体長は何メートルなんだ?」という問い合わせが海外の猫の専門家からあったときはびっくりしましたけど(笑)。
猫たちの名前をつけてイラストを送ってきてくれた人、ケージを買ってもってきてくれた人、「おしっこなどの匂いがしたら困るやろ」と高価な空気清浄機をプレゼントしてくれた社長、餌がなくなったらいつもいっぱい買ってきてくれる人など、SNSを通じて多くの方々が、コロナでみなさん大変やと思うのに、助けてくれて、本当に感謝しています。猫好きの人に悪い人はいませんね。ほんまそう思います。自分は生かされている、とも感じます。店の予約はしばらくほとんどなかったのに、最近では週末1日20人以上の予約が入るまでに持ち直しています。
だから、今度はこっちが猫たちに恩返しせなあかんと思うてるんですよ。こういう厳しい状況はまだまだ続くと思うんですけど、この子たちが寿命をまっとうするまで、ここで快適に暮らしてくれたらと。猫たちの幸せのために何ができるかを考えながら、欲を出さず、一緒にこの店の灯をずっと守っていけたらと思っているところなんです。
【店名】「ジオラマ食堂」
【住所】大阪市天王寺区寺田町2-5-16 グランコンフォート天王寺ビル1F
【電話】06-6776-2460
【SNS】ツイッター @Caferest_bar_Fe