「あたし 大腸が無いの」…注目の難病・潰瘍性大腸炎 笑えない闘病体験をギャグ漫画に 「腸よ鼻よ」作者に聞いた

川上 隆宏 川上 隆宏

安倍首相を辞任に追い込んだとして、注目を集めた病気「潰瘍性大腸炎」。この国指定の難病を抱える漫画家が、闘病の日々をギャグエッセー漫画に描き、話題を集めていました。入退院を繰り返しながら、大腸の全摘出など10回もの手術を経験。描かれている体験は壮絶そのもの…のはずですが、描かれているストーリーはなぜか底抜けに明るくて…。SNSなどでも「笑っていいのか躊躇してしまう」などと話題になっています。

沖縄出身で、現在は治療のために三重県に住んでいる漫画家・島袋全優さん。「腸よ鼻よ」というタイトルで、2017年より漫画ネット配信サービス「GANMA!」で連載しています。2019年には、niconicoとダ・ヴィンチが創設した漫画賞「次にくるマンガ大賞」のWeb漫画部門で3位を受賞しました。

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患。下血を伴うこともある下痢や腹痛が特徴的な症状で、公益財団法人・難病医学研究財団が運営する難病情報センターのホームページによると、国内の患者数は16万6060人(2013年度末)といいます。

そんな病気を描く漫画は、島袋さんをモデルにした大人の女性が、バーを訪れるシーンから始まります。おつまみとして出されたシマチョウ(牛の大腸)をきっかけに、衝撃の過去を語りだす女性…「あたし 大腸が無いの」。そんな突飛なオープニングをきっかけに、闘病の詳細な体験が回想されていきます。

島袋さんが発症したのは19歳の専門学校生の時。折しも漫画家として注目を集め始めた時期…連載や単行本のための作業が重なるたび、体調を崩して緊急入院を繰り返してしまいます。発症から3年、10回以上入院を経験した島袋さんは、症状の抜本的な改善を目指して、大腸の全摘出を決意します。ただ、その手術は大変「過酷」なもの。その後も大腸摘出をきっかけにした新たな病と闘うことになっていきます。…って、あらすじだけ書くと、とてもギャグ漫画とは思えない内容ですが…。

島袋さんにお話を聞きました。

『可哀想ww』くらいの感想で読んでもらえたらな…と思って

―闘病のことを漫画に…特にギャグ漫画にされようと思った理由はなぜですか。

「辛い闘病を辛く描いても仕方ないと思ったのもあり、もともと読んでて辛くなるようなエッセーは描きたくないなと立ち上げの編集さんと最初から決めてました。当初は居酒屋で飲んでたら隣のおっさん達から聞こえるちょっと笑える病気話みたいな感じで『可哀想ww』くらいの感想で読んでもらえたらな…と思って始めました」

―描かれていることは、どの程度まで島袋先生が実際に体験されたことなのでしょうか。

「病状と治療と入院回数は実際のものです。ただ、大腸全摘手術の直前に、消化器内科の担当医だったドクターSからバンダナを託されたりしたのは盛ってます」

―登場する担当医・看護師のみなさんがとっても個性的で、冗談みたいな会話をされていますね。まさか、あのやり取りもリアルなのですか…?

「(看護師の)マタヨシさんとの会話は結構そのままです。ただ、たくさんの看護師さんを全員出してたらキリないので、いろいろなエピソードを何人かの看護師キャラクターに統合しています」

―ドクターSは見た目も口調も、めちゃくちゃスパルタですよね。

「ドクターSとの会話は本当はもうちょい優しくいってくれてましたけど…。ただ、何回も仕事で無理して入院してた時は普通にちょっとキレてました。そして、ダイエットコーラに爆ギレしてたのはガチです」

―ああ、ゼロカロリーの飲み物は腸に良くないと指摘されていましたね…。

炎症が悪化するとトイレに一日数十回 体力の消耗がすごい

―潰瘍性大腸炎の症状で、一番困ったことは何でしたか。

「やっぱり炎症が悪化するとトイレに一日数十回を行くのが困りました。炎症が悪化すると痛みで長時間全身が強張っているので体力の消耗がすごいんですよね。そんな状態で仕事の原稿描いててもペンがヘロヘロになっちゃって大変でした」

―治療で最も大変だったこともお聞きしたいです。

「一番治療で大変だったもの……、大体最初は全部大変だったんですがやっぱ大腸の全摘手術と、痛みを抑えるためのモルヒネ関連ですね。モルヒネについては今後の漫画で描いていくつもりです。ちなみに、大変だと思われている絶食点滴治療なんですが、あれは慣れますよ」

―GANMA!での連載中も、「取材」とは称されていますが、体調を崩されて休載されているタイミングがあります。治療をされながら漫画を描かれているモチベーションはどこにありますか。

「モチベーション……、多分仕事でも仕事じゃなくても漫画をずっと描いてる人間なので、お仕事の漫画でのモチベーションはちょっと汚い話になりますけど『原稿料』です……。『金』はやはり、やる気の源になります」

―漫画でもそのあたりはとても描かれていますよね…。

「それとは別に、『腸鼻読んで元気をもらました』『知人も同じ病気ですが、病気を理解できました』と私の漫画が誰かの役に立ってたらすごい嬉しいですし、モチベ上がりますね!」

「頑張ってね」ではなく「頑張っているんだね」といってあげて

―すこし前ですが、安倍首相が潰瘍性大腸炎の再発で、退陣しました。病気のために仕事が続けられない人がいることについて、どのように感じられますか。

「最近は潰瘍性大腸炎の認識も広がってきていますが、見た目は健常者と変わりがありませんので、説明しない限りは周囲にはわかってもらえません。赤の他人にも身内にも病気に理解がない人は世の中にたくさんいます。カルテを知ってる当事者しか病状を理解できないものですしね……」

「潰瘍性大腸炎に限らずストレスで悪化してしまう病気のせいで仕事を続けられない方も少なからずいるので、とても大変だと思います。私の場合再燃のスパンが短く多かったのでこの漫画家の職業じゃなかったらどこにも雇ってもらえなかっただろうなと痛感しています。漫画なら入院中でも頑張ったら仕事できますからね(お勧めしませんが)」

―もし自分の身近な人がこのような病気にかかった場合、どのように接したり、サポートしたりするのがよいと思われますか。

「そんなに気を使って『病人に接しなきゃ~』って思わなくていいと思います。でもまぁ、それも個人差です。私のこと何もいわなくても察して!!っていう人じゃない限りは、本人に聞いたり本人が説明したことを覚えてもらえたらいいと思います。私のようにネタにする人もいるけど病気について触れて欲しくない人だっていますから…」

「あと、闘病してる人には『頑張ってね』『可哀想に』という言葉はいわないで、代わりに『頑張ってるんだね』といってあげて下さい」

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2017年に始まった連載。物語を登山にたとえると、現在は7合目くらいまで進んだ状態だといいます。漫画ネット配信サービス「GANMA!」で読むことができるほか、KADOKAWAから単行本化されており、現在3巻まで販売されています。

■GANMA! 腸よ鼻よ https://ganma.jp/chohana

■KADOKAWA 腸よ鼻よ03 https://www.kadokawa.co.jp/product/322003001069/

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潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患(IBD)の検査・治療・治験などの専門情報を提供しているサイト「IBDプラス」が10月30日午後8時から開催する「YouTube座談会」に、島袋全優さんがスペシャルゲストとして参加します。テーマは「症状が出たときどうするか〜仕事や生活について〜」。関心のある方はぜひチェックしてみてください。

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