本をテーマに地域密着の薬局を展開しているのが、大阪府府豊中市の「ページ薬局」だ。薬剤師の瀨迫貴士さんが手探りで今年6月、開業にこぎつけた。偶然にも、入居した集合住宅の1階には、30年ほど前は書店が営業していたそうだ。
書店経営のきっかけは、「1カ月で100冊の本を読もう!」への挑戦だった。ネットで推薦本を募ったところ、フェイスブック経由でおすすめ情報が数多く寄せられた。熱く語るメッセージに触れ、瀨迫さん感じたのは「本は人なり」。思いは膨らみ、「薬局を訪れるお客さんに本との出会いを提供しよう」と開業を決意した。
ノウハウを持たなかった瀨迫さんをサポートしているのが野坂匡樹さんだ。SNSで瀨迫さんを知り、「お手伝いしましょうか」と連絡。書店の勤務経験をもとに、選書、仕入れ、書棚の構成などを指南する。話し合いながらオープン前に取り揃える1000冊を絞り込んだ。
「足を運んでくれるお客さんを飽きさせないよう、書店の棚はマイナーチェンジの繰り返しです」と野坂さん。当初は野坂さんがアドバイスしたが、最近は薬剤師のスタッフがお客さんの様子をみながらポップを作り、おすすめをアピールしている。来店者の年代が高めという特徴を踏まえ、お城やお寺などの地元情報の本を充実させたのはスタッフのアイデア。どの本を「平」にするか、「面陳」にはどれが向いているか、その時点のベストの書棚を目指して模索を繰り返すうち、その店らしい「書棚」が見えてくるという。瀨迫さんに聞いた。
―本をテーマにした薬局、手ごたえはどうですか。
「調剤までの待ち時間、書棚を眺めて買ってくださる方が多いですが、本を目的にふらりと立ち寄ってくださる方もいてありがたいです」
―健康・医療関連の本はあえて外しているそうですね。
「薬局だから健康医療本を充実させるというのも一つの考えかもしれませんが、書店は本との偶然の出会いの場であってほしいのであえて外しています。本棚を眺めるうち、思いがけないジャンルの本を発見してもらえれば。もちろんヘイト系の書籍などは置いていません」
―お客さんは、「薬局×書店」をどう受け止めていますか。
「本好きの方は『薬剤師がどんな本をチョイスするのだろう』と関心を持っていいただいているようです。私たちもお客さんと本談義ができ、作家さんと直接つながったりすることができました。数字だけを見るとまだまだですが、本屋として価値のある場所にしていきたいです」