介助犬・グロリアは元盲導犬候補生 “欠点”を克服しキャリアチェンジ、新たな道で活躍中!

岡部 充代 岡部 充代

 介助犬として活躍しているグロリアくんはラブラドールレトリーバーとゴールデンレトリーバーのミックス犬。2014年2月に京都府在住の清家夕記子さんと介助犬認定審査に合格し、以来、日常生活における様々な動作を補助することで、彼女の暮らしが豊かになるよう手助けをしています。

 実はグロリアくん、元は盲導犬候補生でした(『社会福祉法人 日本ライトハウス盲導犬訓練所』所属)。しかし、他の犬に会ったとき注意力が散漫になる傾向があり、盲導犬には向かないと判断されて『特定非営利活動法人 兵庫介助犬協会』に籍を移すことになりました。

「盲導犬のユーザーさんは目が不自由ですから、他の犬がいることに盲導犬より先に気づくのは難しいし、名前を呼んでアイコンタクトを取り、盲導犬の意識をユーザーのほうに向ける工夫もしづらいでしょう。でも介助犬のユーザーであれば、犬の反応の程度にもよりますが、他の犬の存在に気づいた時点でアイコンタクトを取って、介助犬に適切な振る舞いをさせることができます」(兵庫介助犬協会・北澤光大さん)

 介助犬協会ではアイコンタクトを教えるなど盲導犬とは異なるアプローチでグロリアくんを訓練し、“欠点”の克服に成功。新たな道を切り拓きました。

 盲導犬、聴導犬、介助犬は総じて「補助犬」と呼ばれ、2002年に施行された『身体障害者補助犬法』によって公共施設や交通機関、スーパーや飲食店などでの同伴受け入れが義務付けられているという点は同じですが、ユーザーはそれぞれ目が不自由な方、耳が不自由な方、手や足など身体が不自由な方と異なります。犬に求められる資質や仕事内容にも違いがあり、何か1つの分野で「不向き」と判断されても、他の分野では十分に活躍できる可能性があるのです。

 兵庫介助犬協会には現在、グロリアくんの他に盲導犬からのキャリアチェンジ犬が4頭います。訓練中のアリシアちゃんとイムアくん(関東の拠点である『千葉介助犬協会』所属)、PR犬として活躍しているクレールくんとココスちゃんです。PR犬とは介助犬の認知度アップのためイベントや講演会でデモンストレーションを行ったり、募金活動に参加したりする犬のこと。環境の変化に動じない、ボランティアさんでもコントロールが可能、人に対してフレンドリーであるなど、いくつかの条件をクリアした犬が任命される重要な役割です。

「自前で繁殖までできない私たちにとって、キャリアチェンジ犬を提供していただけるのはとても助かります。訓練は共通する部分も多いので、基本的なところを済ませていれば次のステップ、つまりユーザーさんの障がいに応じた訓練に進むことができます。グロリアの場合、ユーザーさんは部屋の中や短い距離であれば伝い歩きができるので、盲導犬と形状は少し異なりますがハーネスを背負って、立って歩くサポートもしているんですよ」(北澤さん)

 盲導犬はユーザーの“目”として、聴導犬は“耳”として働くことが求められますが、介助犬はユーザーが身体のどこに障がいを抱えているか、どの程度の障がいかによって訓練の内容が変わってきます。例えば、手が不自由であればドアの開閉やスイッチの操作補助が必要ですし、足が不自由であれば立ち上がりや歩行の際の支えになること、遠くにある物を持ってくることなどがニーズとしてあるでしょう。つまり、最後は“オーダーメイド”になるのです。

 

 厚生労働省の発表によれば、日本で実働している介助犬の数は62頭(2020年4月1日現在)。盲導犬の909頭に比べるとまだまだ少なく、認知度も低いのが現状です。潤沢な資金があるとは言えず、自前の繁殖が難しいのもそういったことと無関係ではないでしょう。盲導犬候補生がキャリアチェンジで介助犬になる――。それは犬にとっても、盲導犬や介助犬の育成に取り組む人たちにとっても、もちろん、ユーザーにとっても非常に有意義なことなのです。

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