甲斐ちゃんは、母猫が育児放棄した子猫だった。そばにいるだけでまったく子猫に関心がないようだった。大阪府に住むAさんは、このままでは命が危険だと思い保護。前脚の骨折がなかなか治らず、左右の前脚の長さが違ってしまったこともあり、多頭飼いしていたが、甲斐ちゃんも家族として迎えることにした。
母猫が育児放棄
2011年9月初旬、晴れていて暑い日だった。大阪府に住むAさんは、自宅ガレージの2階にある倉庫で2匹の子猫を見つけた。爪が伸びすぎて肉球に刺さっていたので爪切りをしたが、母猫らしき猫がそばにいたので保護しないで様子を見ることにした。簡易トイレを置くと、きちんとそこで排泄していた。
数日後、1匹の子猫が亡くなっていた。
「とてもとても小さくて、もしかしたらミルクをもらえなかったから小さいだけなのではないか。生まれてから結構日にちが立っているのではないかと考え、ぞっとしました。もっと早く保護していたらと後悔したんです」
残る1匹を抱き上げ保護しても、母猫は知らん顔をしていた。一緒にいるというだけで、世話はしていないようだった。
6匹も7匹も変わらない
子猫はとても小さく、不安げな顔をしていた。大人しくて、よちよち歩く姿が可愛かったという。
獣医師に診てもらうと、体重380グラム、生後1カ月くらいということだった。栄養失調。右前脚首を骨折していたが、小さすぎて添え木ができないのでテーピングをしてもらった。治療に長くかかったので右前脚は成長が遅れ、左前脚よりやや短い。生活に支障はないものの、座った時に右手が下につかないので上にあげていたり、歩く時、少しびっこひいているような感じになったりすることがある。
「左右の前脚の長さが違うということもありますが、この頃、里親詐欺の話を聞いて怖くなり、探す方が精神的にしんどい、苦痛だと感じるようになりました。母も私も、この際6匹も7匹も変わらないと思い、そのまま家族にしたんです」
お腹がすくと「まんまー!」
名前は、忍城の戦いで武勇を発揮したという逸話がある甲斐姫にちなんで「甲斐ちゃん」にした。あまりにはかなげだったので、強い子に育ってほしかったのだという。甲斐ちゃんは、めちゃくちゃ気の強い子になった。
先住猫のむぅちゃんが、まるで母猫のようによく面倒をみた。Aさんは2011年6月に虎十郎くんという下半身が不自由な子猫を保護したのだが、3カ月後に甲斐ちゃんが来たので、先住猫たちはすぐに一緒に遊ぶようになった。
末っ子パワー炸裂のお嬢さんのようだという。先住猫の晴生くんがお気に入りで、晴生くんの前では声色が変わる。お腹がすくと「まんまー!」と叫ぶのが得意技。気が強くてすぐシャーシャー言うのに、獣医さんが怖くておもらししてしまうおちゃめなところもある。