電子おじぎ印で倍返し? 河野大臣の「ハンコ要らない」発言も…シヤチハタは電子印に新機能投入で進化

佐藤 利幸 佐藤 利幸

「三文判を押す行為は、個人の認証にもならないですから、要らないだろうと思います」

河野太郎行革担当大臣がそう言って、国の省庁に求めた “ハンコレス”。行政手続き上のハンコの廃止を目指すものだが実現すれば、影響はその後省庁に留まらないだろう。

この降って湧いたような発言にハンコ業界、とりわけあの会社は右往左往しているに違いない。「大臣の発言をどう思っているのか」。朱肉なしハンコの国内市場で8割以上と圧倒的シェアを誇るシヤチハタ株式会社(本社・名古屋市)に聞いた。

同社の主力商品である朱肉のいらないハンコの正式名は「ネーム9(ナイン)」という。その歴史をたどれば、1968年に最初の朱肉のいらないハンコ、グレイの色に身をつつんだ「ネーム」が誕生した。その18年後の1986年、ロングセラー商品となっている「ネーム9」がお目見えした。きっかけは銀行員のある悩みだった。来る日も来る日も、ハンコに朱肉をつけて、それを書類に押しつけて、の動作を3000回繰り返していた。「手が腱鞘炎になる」と銀行員の悲痛な声を耳にした同社はそれまでの光に弱い染料インキから、耐光性のある顔料インキへ改良を行い、現在のブラックボディにモデルチェンジした「ネーム9」を発売した。ちなみに商品名の「9」は印面サイズが直径9.5ミリであることに由来している。

筆者も入社以来、大変お世話になった。「履歴書」にはじまり「稟議書」「交通費・経費精算」「出張計画書・精算」、そして家族が増えれば「扶養家族申請」、サラリーマン人生は愛称・シヤチハタことネーム9とともに歩んできた。そういえば家にも1本“常駐”してもらっている。郵便物や宅配便の受け取りに「ポン」と押すためだ。

――大臣の発言についての率直な感想を

「押印をなくすことにより、手続きが早く進み便利になるのは良いことだと思います。ただし、申請者に不利益が起きないようにしなければいけません」

――大臣の発言以前から、ハンコ文化の変化を感じていたか

「ハンコのために出社しなければならないということが、社会問題として取り上げられハンコの必要性が議論されており、物理的なハンコの使用は減っていく傾向があると感じています」

――新型コロナによる売り上げへの影響は?

「コロナにより社会経済活動が制限された影響で、もちろん当社の売り上げにも影響はありました。しかし、手洗い練習スタンプ『おててポン』は、お子さんにしっかり手洗いをしていただく目安として便利だということで、逆にコロナ禍で大きく販売数が伸びました」

おててポン 学生のアイデアが商品に。2016年11月発売。洗う前に手にスタンプを押し、30秒間石けんで手洗いをすれば消える仕組みで、小さな子どもの手洗いの練習になる。名古屋芸術大学との連携によって生まれた。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、石けんでの手洗いが励行された影響で、今春の販売数は前年同期比20倍。

――おててポン以外に新商品の開発予定はあるのか?

「新商品は、コロナ影響のあるなしに関わらず開発に取り組んでいます。しかし、コロナ禍において、より生活者が安心安全で便利に使える商品、サービスを早く提供できればと考えています。例えば、在宅ワークが進む中で多くの方にご利用いただいたクラウド捺印サービス『パソコン決裁Cloud』は、今年中に新バージョンも発表予定です」

パソコン決裁Cloud パソコン上で捺印ができるサービスを1995年に開発。当初は反響がなかったが、新型コロナウイルスの感染拡大で、テレワークが浸透。25年の時を経て、申し込みが殺到した。申し込み件数は2月2000件、3月1万5000件と伸びをみせ、3月からの4か月間で27万件に到達した。「びっくりです。異常な数字です」(広報担当)。

――その新バージョンには、いわゆる“おじぎ印”の機能も含まれているとか

「お客様からリクエストがありましたので、それに応えるための新機能です。“おじぎ印”も含めてですが、角度をつけることによって、そのときの感情を表すことができます」

おじぎ印 一部の業種でビジネスマナー化している押印方法。上司に対し、部下がお辞儀をするように見えることからおじぎ印と呼ばれている。

――当初反響がなかったサービスを25年も継続してきたのはなぜ?

「開発当時はウィンドウズ95が登場したときでした、そのときからいずれパソコンに置き換わる、一方で便利な世の中になってもハンコ文化自体は残ると思っていました。(ハンコの電子化は)ウチがやらないと、他がやってくると考えていました。IT企業が作るよりウチの方がいいものを作れると自信を持っていましたし」

  ◇   ◇   ◇

シヤチハタはほかにも、鮮やかな発色の水性顔料系インキを使ったペンの「デコライト」、肌着などのまえうしろが分かりやすくなる目印をスタンプする「お着替えできるポン」、ネーム9そっくりな「リップ美容スティック」など攻めの姿勢でアイデア商品を世に送り出している。

ハンコの種類
実印  法的な効力をもった印鑑
認印  意思確認や承認に使用 ← シヤチハタはココ
銀行印 口座開設に必要な届け出印鑑

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