「遺産は猫のために」 猫好き男性の遺志を継いだ「猫基金」が発足、込められた思いとは

天草 愛理 天草 愛理
【イメージ写真】哲学の道の斜面でくつろぐ猫。「猫と人間の共生社会づくり」に向けた取り組みが始まっている(京都市左京区)
【イメージ写真】哲学の道の斜面でくつろぐ猫。「猫と人間の共生社会づくり」に向けた取り組みが始まっている(京都市左京区)

 遺産は猫のために―。生前は猫好きだった男性の遺言に基づき、多額の資金が京都の公益財団法人に寄付された。その思いを受け継ぎ立ち上げられたのが、その名も「猫基金」。猫の保護や避妊去勢といった活動だけでなく、「猫と人間、動物と人間の共生社会づくりに寄与する事業」に幅広く助成するという。猫をはじめとしたペットが、飼い主に捨てられたり、繁殖で数が増えすぎたりしたばかりに地域社会で迷惑扱いされ、時に殺処分へと追いやられる世の中。猫基金はそうした負の連鎖を止めるきっかけづくりを目指している。

 男性は京都市出身。2018年秋に68歳で亡くなった。猫好きだったが、病気で余命が長くないことや身寄りがないことなどを理由に晩年は猫を飼っていなかったという。

 「遺産を猫のために使ってほしい」。生前、周囲にそう話していた男性。遺言書にのっとり400万円の寄付を受けたのが、さまざまな公益活動を資金面で支援する公益財団法人「京都地域創造基金」(京都市上京区)だった。法人のスタッフは、男性の遺言執行者と話し合い、生前の言葉通り、猫をはじめとした動物のために活用することを決めた。

 一般社団法人「ペットフード協会」によると、2019年10月現在、全国の推計飼育頭数は猫が977万8000匹、犬が879万7000匹。飼育世帯率は猫が9.69%、犬が12.55%となっている。ペットが身近な存在になる一方、動物への虐待行為や飼育放棄、飼う頭数が多過ぎて適切な飼育環境を保てなくなる「多頭飼育崩壊」、それらの行き着く先としての殺処分など、動物をめぐる社会問題は後を絶たない。

 捨てられた動物の保護や過剰な繁殖を防ぐ避妊去勢は、こうした問題の解決にあたって重要な活動であり、猫基金も支援するが、対象となるのはそれだけでないという。京都地域創造基金事務局長の可児卓馬さんは「『目の前の動物』に手をさしのべる活動はもちろん大事ですが、そもそも悲惨な状態が生まれない社会づくりが重要です」と指摘する。

 例えば、多頭飼育崩壊の背景には、飼い主自身の精神的な問題が潜んでいる場合も少なくない。そうしたケースでは、動物愛護の観点だけでなく、福祉面からのアプローチも飼い主が抱える生活上の課題を解決する可能性があることから、基金による支援対象に含める予定だという。

 可児さんは「動物を排除する思想は人種や国籍、障害の有無などいわれのない差別と根源は同じ。動物にとって生きやすい環境が人間にとっても生きやすい環境なんだと思います。『猫と人間、動物と人間の共生』とはどのような状態か、ビジョンがある人たちと議論しながら考えていきたいです」と期待を寄せる。

 支援の申請受付は2021年3月31日までだが、助成総額150万円に達した時点でストップする。対象は京都府内で活動する団体で、1件あたり5~30万円を援助する。寄付金のうち残る250万円は40万円を運営経費に充て、210万円は次回の助成に活用する予定だ。

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