シャンパンタワーの「誤解」数学的に考えると…上から注いでも均等には行き渡らない!?「タワー職人」も実験で証明

川上 隆宏 川上 隆宏

シャンパンタワーの上からシャンパンを注ぐと、シャンパンはどのように流れてグラスにたまっていくのか…そんなこと、みなさんは考えたことありますか? てっきり均等に行き渡るものかと思っていましたが、「数学的」に考えると、どうも違うみたいです。下の段になるほど中央に集中してしまうといい、この話を聞いた「シャンパンタワー職人」さんが実験してみて証明までしちゃいました。チャラくてバブリーなイメージがつきまとうシャンパンタワーをめぐり、真面目な「理系的な考察」がされたという面白さも相まって、SNSで話題になっています。

シャンパンタワーにまつわる疑問を投稿したのは、パフォーマーとして活動しながら予備校の数学講師もされている、池田洋介(@ikeikey)さんです。8月13日にイラスト付きでこんな疑問を投稿しました。

「シャンパンタワーで上からシャンパンを注ぐと下のグラスに均等に行き渡るみたいな説明をよく見るんだけど、あれってウソじゃない? 数学的に考えれば二項分布で下層ほど中央にシャンパンが集中しちゃう気がするんだけど。実際やっている人はこの問題をどう解決してるの?」

この問題を解くために池田さんが考えたのは、平面的にグラスが5段重ねられた簡単なシャンパンタワー。上の段のグラスは下の段のグラス2個に支えられていて、上からあふれた液体は、下の段で接する2つのグラスに2分の1ずつ流れます。そういった想定のもと、一番上から注いだ液体がどのように行き渡るか考えてみると…段が下になればなるほど、中央のグラスにたまる結果に。計算をすると、5段目では端のグラスがいっぱいになるまでに、中央のグラスに6杯分もの液体が集まってしまうことが分かりました。すべての段をいっぱいにするには、31杯分の液体が必要になるといいます。

投稿した池田さんに聞きました。

――今回のようなツイートをされたきっかけはなぜですか?

「経済学のトリクルダウン(富が上流から下流に流れる)をシャンパンタワーで例える説明を見たのですが、ふと、そもそもシャンパンタワーって本当に下部のすべてのグラスに均等に液体が行き渡るものなのだろうか…と疑問に思ったのがきっかけです」

――あ、アベノミクスの説明とかで、よく出てきた図ですよね! 「数学的に考えれば二項分布で下層ほど中央に集中」とのことですが「二項分布」とはどのような意味でしょうか?

「こちらの図で描いているような確率の分布のことを『二項分布』といいます。例えばボールが上から落ちてきて、分岐で左右に等確率で分かれていくとすると下段にいけばいくほどボールは中央に集まりやすく、端に集まりにくくなります。そういった状況をうまく視覚的に表現しているおもちゃに『Galton Board(ゴルトンボード)』というものがあります。Youtubeなどにも動画が上がっているので、気になる方は探してみてください」

「シャンパンタワーは実際には立体的に組み上げるものなのですが、話を単純化するために今回は平面的なモデルで考えました。そのとき液体はまさにこのおもちゃにおけるボールと同じふるまいをすることになります」

――このような結果を見ると、上からシャンパンを注ぎ続けると多量のシャンパンを無駄にしてしまいそうですね。このような結果は池田さんにとっては意外でしたか?

「そうですね。漠然とシャンパンタワーはグラスにシャンパンを満たす『効率のいい』やり方なんだろうというイメージを持っていたので、あらためて計算してみて、これほどまでに効率が悪いということは驚きでした。いろんな人のリプライを見て、むしろこれはシャンパンを『無駄にさせるためのシステム』なのだと分かり、納得させられましたが(笑)」

――なるほど…確かにシャンパンタワーを目にするのはお祝いの席ですし、効率よく注ぐことが必ずしも望まれているわけではありませんものね…。投稿を見た人たちからいろんなコメントが寄せられていますね。

「何気ない思いつきに対して、いろいろな人が反応してくれたり、実際にプロの方が映像を寄せてくれたりするというのはSNSのとてもいい側面だなとあらためて感じました。数学の考察というのは、単純化したモデルで行われるいわば『思考実験』ですので、それを実際に試したものを見て答え合わせができるというのはとても面白かったです。立体的な構造だと中央への偏りはより顕著に現れることが確認できました」

   ◇   ◇

…実際に映像を寄せてくれたプロの方というのが、「シャンパンタワー職人(@towercraftsman2)」こと小泉智(さとる)さんです。2005年からシャンパンタワーを手がけるタワーづくりの第一人者で、多数のメディアで紹介されています。

フォロワーの方から池田さんの投稿のことを教えてもらった小泉さん。実際に立体的な5段のシャンパンタワーをつくって、どのようにシャンパンが流れるか実験しました。すると、やはり下層ほど中央に液体が集まったのだそうです。しかも、平面のときよりも偏りは顕著に…。

池田さんがどのように偏るか見積もってみたところ、5段目では端のグラスがいっぱいになるまでに中央のグラスは36杯分もの液体が集中してしまう計算になりました。

小泉さんは「経験上中央に集まるのは知っていましたが、あんなに計算通りといえるくらいに中央にいくとは思いませんでした」と話します。なお、実際のシャンパンタワーのパフォーマンスでは、「1段目以外からもシャンパンを注いだりしてバランスをとる」そうです。

    ◇   ◇

あらためて池田さんに聞きました。

――今回の投稿が話題になったのはなぜだと思われますか。

「おそらく僕が感じたのと同じ『何気なくそうだろう』と思っていたことが、よくよく考えれば違うという、ちょっとした『気づきの喜び』が多くの人に共感されたからなのだと思います。また、若干チャラいイメージのつきまとうシャンパンタワーに対して、理系的な考察をするというギャップも面白がられた要因かもしれません」

――あ、そういえばトリクルダウンに関する最初の疑問はどうなりましたか…。

「『トリクルダウンの例えとして、シャンパンタワーを使うとおかしなことになりますよ』ということはいえますね。なお、このツイートへの反応として『だからトリクルダウン理論はウソだ』という方向性のツイートが散見されたのですが、トリクルダウン理論自体の肯定・否定の話と今回ような液体の流れ方の内容は、分けて考えるべき問題だということは断っておきたいと思います」

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